2020/02/05

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート

【こたえ】
4

【解説】
 ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、いろいろ困った人に周りの人が支援することです。それさえわかれば、正解に近づくことが出来ます。

 1は適切つまり不正解ですね(ややこしい)。要はニーズと支援内容が一致したとき効果的だということで、当たり前です。慰めがほしいときには励ましよりも慰めをあげましょう。
 2も適切です。相手があんまり困った状態にあったら、支援したところで限られた効果しかない、というのは常識的な推論です。
 3も適切ですね。どんな悩みを抱えているかで支援の内容は変わってきます。
 ということで、4が答です。同じ悩みを持った人ならではの支援というのがあるので、避けたほうがいいというわけではありません。

 ソーシャルサポートはいろいろな人がいろいろな分類をしていますが、大まかには問題解決のための情報や資源を提供する「道具的サポート」と、困っている人の気持ちに働きかけたり、その行動や考えを是認したりする「情緒的サポート」に分けておけばよいでしょう。
 また最近では直接相手に働きかけずとも、いっしょに遊んだりすることで間接的な支援をする companionship (教育心理学ではまた訳語がないので「共行動的サポート」「娯楽関連的サポート」などといわれています)も注目されています。

 以上で問題8の解説を終わります。

064)平成30年度 試験I  問題8 問4 文化変容における分離

【こたえ】
1

【解説】
 ベリー君の文化変容に関する知識問題ですね。問題には「タイプ」と書いてありますが、原典である Berry (1997) の "Immigration, Acculturation, & Adaptation" では、この分離とか同化とかを four acculturation strategies (文化変容に対する4種のストラテジー)としています。実際の異文化に対峙した人が心の中でする工夫なので、やはりストラテジーが適切だと思います。

 分離 (separation) というのは、自文化を肯定しつつも相手と同調しないことなので、正解は1となります。
 残りも見ていきましょう。
 2は異文化を受け入れて、自文化はなくなってもいいや、という、1の真逆で、これは「同化 (assimilation)」ですね。
 3は4つの工夫に至る前に思い悩む段階であり、ベリーの4つとはどれも違うものと考えられます。4はどちらも受け入れているので 「統合 (integration)」です。ベリーの4タイプで残ったものは「周辺化 (marginalization)」ですが、これはどちらの文化にも積極的に関われなくなることで、3にあるような「葛藤」よりも内向きに沈潜した状態です。いちおうBerry (ibid.) から原文を引いておきましょう。

 Finally, when there is little possibility or interest in cultural maintenance (often for reasons of enforced cultural loss), and little interest in having relations with others (often for reasons of exclusion or discrimination), then Marginalization is defined.
 最後に(しばしば文化的喪失を押し付けられたがゆえに)自文化を維持する可能性も興味もほとんどなく、かつ(しばしば排除されたり差別を受けたりしたがゆえに)他の文化と関わろうという興味もほとんどないとき、それは「周辺化」と定義される。


【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 379-381

2020/02/04

063)平成30年度 試験I  問題8 問3 Wカーブ

【こたえ】
1

【解説】
 カルチャーショックでよく出てくる、U曲線とそれが重なったW曲線の問題です。検定で始めて勉強する方であれば、川岸ら(2014)の研究ノートが詳しく、また論文ではなく研究ノートなので情報が必要十分なだけまとめられており、おすすめです。

 適切なもの、つまり正解は1なのですが、他の選択肢も解説しておきます。
 2ですが、Wカーブは適応の状態を示すカーブです。つまり曲線が上向いているときは適応状態にあり、下に向いているときは文字通りの「落ち込み」、つまり不適応の状態にあります。
 
 3も「周囲との接触度合いを示す」ものではないから不正解です。
 4はなかなかの引っ掛け問題です。異文化から帰国した後だと、Wの字の右のVだけになってしまいます。左のVはまず異文化への移動、そこで適応して右のVでさらに自文化に再び入ってからの不適応状態 (re-entry shock) を経験し、またそれに適応していくことになります。

 ただし、対策本ではU字、W字とも確立された理論のように書いてありますが、実はどちらも仮説の域を出ないもので、さまざまな知見を引っ張ってきて作っている検定では、これ以上の詳しいことは問えないでしょう。
 たとえばビクトリア大学のコリン・ワードはその著書 Ward, Bochner & Furnham (2001) で、留学した学生がU&Wでは記述のある異文化接触におけるハネムーン期などは経ず、当初の1ヶ月がもっとも depressed (暗澹たる気分)であったという経験を調査し、以下のように述べることでこの曲線への批判を匂わせています(訳は荒川)。

 In contrast to beginning cross-cultural transition in a state of euphoria as proposed by Oberg (1960), it is more probable that the transition commences in a state of at least moderate distress. 
 (カルチャーショックという概念を提示した)オバーグが1960年の著作で述べた、異文化接触の初期において人が多幸感を持って推移するという見解とは対照的に、この推移はどう少なく見ても中程度の精神的苦痛をもって始まるということはかなり言えそうである。

 対策本の事項を記憶するのに手一杯かもしれません。でもご自身が日本語教師としてやっていくうちに、その覚えた事項にも他の人文学/社会科学の諸理論に対してと同じように、どんどん新しい疑問が提示されていきます。そしてそれらを検証する試みがなされていきます。このことは覚えておいてください。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381
追加の事項については p.5 もお読みください☆

2020/02/03

062)平成30年度 試験I  問題8 問2 カルチャーショック

【こたえ】
3

【解説】
 カルチャーショックというのは脱専門語化 (de-terminalization)して、日常でも俗な使い方で使うようになりました。その使い方も詳細はともかく、この問題では常識として使えます。

 1は逆で、ショックで精神的には下降状態、つまり気分が落ち込む抑鬱 (depression) の状態になるのでこれは間違いです。
 2が正解です。この分野の基礎文献で包括的なまとめをしている平田(2014)ではカルチャーショックの身体症状として腰痛、微熱、全身の倦怠感などを列挙しています。
 3ですが、インバウンドの国際化が進んでいる現在、自国で外国人とのインタラクションを経験することはますます多くなり、カルチャーショックを感じることは相当にあるはずですので、これも×です。
 最後の4は明確な間違いで、カルチャーショックは持続的な心の状態とされ、次の問題に続くように、段階別に示されます。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381

061)平成30年度 試験I  問題8 問1 文化化

【こたえ】
3

【解説】
 問題8の5問は、異文化接触に関わる問題です。
 "ぶんかか"というのは耳慣れないことばですが、子どもが成長するにつれて自分の属する文化に適応していくことです。当てはまる答は4ですね。で、一定の文化を自ら持つようになった人が、異なる文化に触れて変わるのが文化変容ということになります。
 ところが英語ではこれはいずれも acculturation の一語に集約されます。言い換えれば、acculturation の訳として ①自文化への「文化化」 ②異文化に触れることによる文化変容(選択肢の3) があることになります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』p. 379

2020/02/02

060)平成30年度 試験I  問題7 問5 適切な教材の選定

【こたえ】
3

【解説】
 知識の断片になりがちなコースデザインをスクリプト(時間順での出来事)で考えさせる良問です。1つずつ考えていきます。

 まず1ですが、最初の学習者ニーズを調べる段階で教科書を決めるには尚早です。シラバスを決めてから教科書を考え始めるのが通例です。
 2は現場の実際はともかく、理念的にはあくまでシラバスがまずあって、それに合う教科書を考えるのが普通です。
 4ですが、一昔前はこういうことを言う人がいたのですが、教材の本物らしさ (authenticity) が重視されるようになってから、入門段階でも(むしろ入門段階ゆえに)
生教材を使おうという声が英語教育などでは大きくなっています。

 正解は3ですね。これも理屈の上ではこちらの事情に教材を合わせるのがそもそものあり方であると考えてください(実際は双方のすり合わせになるのですが)。なお主教材の英訳は main textbook ではなく coursebook というのが通例です。

 以上で問題7の解説を終わります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 462-465
日本語教育のミカタ』 pp. 145-146
059)平成30年度 試験I  問題7 問4 カリキュラムデザイン

【こたえ】
3

【解説】
 これはシラバスデザインとカリキュラムデザインの違いを問う問題です。デザインはこの場合「策定すること」ですから、シラバスとカリキュラムの違いがわかれば解けますね。
 
 シラバスは前問のとおり「何を教えるか」、カリキュラムは「いつどうやって教えるか」ですから、後者にはコースの目標、使う教材、スケジュール(進度)、評価方法などが関わります。これで問題を見ると3の「学習項目のリスト」がシラバスであることは明白ですから、こちらが正解となります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426
日本語教育のミカタ』 pp. 9-11

2020/02/01

058)平成30年度 試験I  問題7 問3 様々なシラバス

【こたえ】
1

【解説】
 シラバスの種類と特徴を区別できているか問う設問です。
 言うまでもなくシラバスとは「何を教えるか/学ぶか」を詳述したもので、検定的にはまずざっくりと
・文型シラバス(構造シラバス)
・それ以外の仲間(非構造シラバス)
 に二分しておくと良いでしょう。

 文型シラバスはたとえば「AはBです」のような名詞述語文を「AはBですか」「AはBですか、それともCですか」のように複雑にしていくように、文の構造を易→難に並べたもので、有名な教科書『みんなの日本語 初級』はこれを採用しています。文型を易→難にしたということは、教え方の配列(カリキュラム)もシラバスに含むようになっています。多くの伝統的な外国語教育で採用されており、だんだん難しくなっていくので、初めて教える人でも教えやすいところが特徴です。学習者にとっても文型という記憶の足がかりがあるので学びやすい側面があります。

 それ以外の仲間は非構造シラバス、つまり文型のような関連性は持たず、別の観点からシラバスをまとめあげています。
・どこでそのことばを使うか=場面シラバス
=駅、学校、パーティ、職場などの場面で使いそうなことばや文を学ぶシラバス
・何のためにそのことばを使うか=機能シラバス
=誘う、断る、文句を言う、説明するなどことばの役割に目をつけてまとめたシラバス
 ざっくり書くと、上の2つを足したものを概念・機能シラバスといいます。最初の提唱はウィルキンズ1976です。TESOL(英語教育)では古文の枕草子並みにポピュラーですが日本語教師で実際に読んでる人は少ない模様(個人の印象です)。読みやすいですがシラバスだけざっくり読みたい人はコチラの最後の4ページをどうぞ。学部生の簡単なレポートくらいは書けそうですね。
 
 他にも非構造シラバスとしては話題シラバスや課題シラバスがありますが、これらは実際のタスクやアクティビティと線引きがしにくいので、まずは上の4つをしっかり理解するのが良いと思います。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426-427

2020/01/31

056)平成30年度 試験I  問題7 問1 ニーズ調査・分析

【こたえ】
1

【解説】
 ここからはコースデザインを時間順に考える問題です。コースデザインを大まかに考えると、まず学習者のことを調べ、それに基づいて何を教えるかを決め、最後にいつ何をすするか時間順に落とし込んでいきます
 コースデザインをして授業が計画通りに行けば終わり、というだけではなく、そのあとでコース全体の評価もするのが理想です。遠足はうちに帰るまでが遠足です、と似たような理屈です。

 では最初はニーズ調査と分析、つまり学習者は何を学びたいのか調べて考えるというものです。でも自分が日本語教育研究所みたいなのを持っていて、どこかの会社からウチの社員30人の日本語教育を頼む、などと探偵事務所への依頼がある場合ならともかく、普通は機関に勤めれば、たとえば初級3コマを任され、教科書はもう決まっている、というケースがほとんどです。つまりコースデザインは、新規コースの責任者以外には直接には関わりない場合が少なくありません。

 では順に見ていきます。この手の問題で「~の必要はない」と書いてあるものはたいてい不正解です。ことばの教育は多様な事項が複雑につながった複合体であり、教師と学習者の対話から織り成されるものですから、何かが不要である、と言い切ることはまずできないのです。テクニックっぽいけど覚えておきましょう(実際もそうですし)。
 まず1ですが、アンケートは紙じゃなければいけない、ということはありません。メールでもSNSでも聞けるし、口頭でもかまいません。常識で排除できます。

 2が正解で、さっきの探偵事務所っぽい依頼の場合、その会社でどんな日本語が用いられるのか、学習者はどんな日本人とどんな日本語を使うのか、といったことはまだ未修の外国人にはわかりませんから、その周辺の学習者に聞く必要が出てきます。

 3-4は「必要ない」の文備なので排除できるんですが、いちおう一つずつ。まず入門レベルには調査不要とありますが、入門レベルこそ調査が必要であることお分かりだと思います。調査はコース前で終わればいいのですが、外国語学習はこれで終わり、ということはありません。コース中に新たな二-ズが生じる場合もありますし(マンツーマンでなければそんなに即時の対応は出来ませんが)、コース終了時にも最初のニーズは満たされたか、今何が足りないと思うかなど、調べることは少なくありません。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 424-426
055)平成30年度 試験I  問題6 問5 効果的な練習方法

【こたえ】
2

【解説】
 用語の知識を問う問題です。知っていることば、聞いたことはあることばはどれでしょうか?

 最も有名なのは4の「ディクテーション」でしょうか。聞いた音を文字にして書くものですね。単語のレベルのもの、文を書くものといろいろですが、要は 聞く→書く の作業ですから、コミュニケーション能力の養成からは遠そうです。ちなみにディクテーションの進化形(ポケモンかよ)ディクトグロスがあり、こちらは聞いたことをメモして、あとでペアやグループで話し合いながら内容を復元するという活動で、従来のディクテーションの欠点をカバーするものです。今後の必須用語になりそうですし、国際交流基金日本語国際センターが良い紹介記事を載せています。

 3のフォローアップ・インタビューは「インタビュー」という名前なので、ついペアでのやりとりなどを想像してしまいますが、これは引っ掛け (a trap question)ですね・フォローアップ・インタビューは研究の方法のひとつで、実験などをしたあとに被験者にその内容ややり方などについて改めて訊く活動のことです。

 1のラポート・トーク。Rapport は1語の場合、フランス語の音を文字にして「ラポール」ですが、トークがつくと英語音を文字にして「ラポート」、日本語の融通無碍な音と文字の対応関係が良く出ています。で、意味ですがこれも練習方法ではなく、相手との調和を重視した、心のつながりのある話し方のことです。
 アメリカでベストセラーになったTannen (1990) You Just Don't Understand! では女性のサポート・トークに対して男性のレポート・トーク(社会的な立場を意識した話し方)が示されています。

 正解は2のシナリオプレイで、これはある脚本をそのまま覚えて演じる活動です。自発的な発話はありませんが、自然な言い方を学べるし、受け答えの間や音声面も学べるのでコミュニケーション力の養成に役立つとされています。なお似た概念に、学習者が数ターンの短い劇をするものもあり、こちらはスキット (skit)と呼ばれています。スキットの脚本を学生が書く場合もあります。
 
【解説】
日本語教育のミカタ』 pp. 139-141

2020/01/30

054)平成30年度 試験I  問題6 問4 応答練習

【こたえ】
1

【解説】
 パターン・プラクティスの種類を問う問題です。
 問題だけ見れば日本語クイズ系で、応答、つまり質問と答えを練習するものですから、正答の1はさほど苦労せずに見つけることができます。
 ただし、覚えておくべきことは、オーディオ・リンガル・メソッドの場合、応答練習といっても、何を答えるべきかという「答の内容」もすべて教師が決めていることです。選択肢の中で教師は「毎日テレビを見ますか」という質問の後に「はい」という合図(キュー)を出しています。学習者はこのキューに従って「はい、見ます」と答えることになり、この人がネット中心でテレビは見ない生活であっても、こう答えなければならないことになります。
 正しい文を言う習慣づけは大事かもしれませんが、実生活の習慣と反して、単に文法的に正しいって言うのはどうなの、という批判が広まるとALMは修正を余儀なくされました。

 2はキューが「映画」であり、これに応じて学習者は「テレビ」を「映画」に変えて言うように指示されています。ある単語を前の単語の代わりに入れて言うので、この練習を「代入練習 (substitution drill)」と呼びます。

 3は単に後について繰り返す練習 (repetition of patterns)です。
 4は、先生が言ったことを否定の形にして言っています。文の形を変えるので、「変形練習 (transformation drill)」です。

 パターン・プラクティスが日本に初めて紹介されたのは、わたしが生まれた1961(昭和36)年です。その2年前にALMの創始者Fries(フリーズ)が書いた The Structure of English を山家保が『英語の構造』という題で大修館から出したのが最初です。
 コミュニカティブ・アプローチがそれなりに認識されたのは1980年代ですから、相当の間、ALMは英語教育に君臨し、その波をジョーダンの教科書 Japanese: the Spoken Language などを通じて、黎明期の日本語教育はかぶったと考えてよさそうです。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 409-410
ドリルのほかの種類について知りたい場合は
日本語教育のミカタ』 pp. 125-127
053)平成30年度 試験I  問題6 問3 文型練習

【こたえ】
1

【解説】
 検定の実施団体であるJEESの例題に出てきた、オーディオ・リンガル・メソッド (ALM)がここでも出題されています。

 ALMは先生のあとについてリピートしたり、ちょっと文を変えて言ったりする、いわゆるドリルを鬼のようにやれば正しい文を言うことがもはや習慣となり、結果としてしゃべれるようになる、という信念にもとづく指導法です。このドリルの練習をパターン・プラクティス(業界の人はよくパタプラなどと言います。パタリロじゃないよ)と呼びます。

 以上の知識を踏まえて(パタリロを除く)選択肢をチェックします。

 1が正解で、これはパターン・プラクティスの基本の流れです。学校の英語の授業でも、全員が先生の後についてから(コーラス・リーディングですね)、一人ずつが指名されていたと思います。

 2は不適切で、ALMの場合、間違いを放置せず(間違いを「習慣」にしないため)、正しい文を徹底して練習します。

 3も適切ではありません。初級ではあくまで口頭での繰り返しやドリルが重視されます。教授法の名の通り「オーディオ」とは「耳による、聴覚の」ですから、ALMの推進者たちは書く指導のことは考えていませんでした。

 4はちょっと正解っぽいですね。というのは学習者どうしで練習すると、間違った文が習慣化しそうだからです。でもペアで練習しないと口頭練習の機会が少なくなるので、ALMでのペア練習は基本、自由な発話などはなく、決まった対話などを一字一句変えずに、暗記するまで繰り返します。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 436-437
日本語教育のミカタ』 pp. 120-123

2020/01/29

052)平成30年度 試験I  問題6 問2 媒介語の使用

【こたえ】
3

【解説】
 媒介語とは、外国語として習っている言語(目標言語 TL: target language) を理解するために使う、補助のことばです。たとえば中国人学習者に日本語文法の説明をするときに中国語を用いれば、中国語が媒介語となります。今回はその使用で「不適切」なものを選ぶ問題です。

 1は時間の経済性、つまり説明や理解のための時間がもったいないときは媒介語を使う、というもので、これは理にかなっています。前回に示した帰納的なアプローチは、学習者にこれってどう意味だろう? というワクワク感を与えられますが、時間がかかることは確かです。媒介語でさっと説明すればすぐ済むし、理路整然と進みます。

 2もその通りです。媒介語に頼ってそればっかり使っていては、肝心の目標言語の運用がおろそかになってしまいます。媒介語は料理のスパイスのように、本当に必要なときにちょこっと使う、または授業内で「ここまでは媒介語だけど、ここからは目標言語だけ」ときっちり線引きをするなどの工夫が必要です。

 3ですが、「聞いてください」などの教室の日本語は使用頻度が高い上に学習の初期から多く触れるので、目標言語を使うのが普通です。ですので、これが適切でない、つまり正解です。

 最後の4は適切な使い方です。初級段階でも社会文化的な事項の説明は学習者に必要になるときがあります。でも限られた語彙と文型ではそんな込み入った話はできないので、ここは媒介語に頼らざるを得ないでしょう。

【解説】
日本語教育のスタートライン』p. 408
日本語教育のミカタ』 p. 6
057)平成30年度 試験I  問題7 問2 レディネス調査・分析

【こたえ】
1

【解説】
 次はレディネス調査、つまり学習の準備に関する調査です。レディネス調査をひとことで言うと「学ぶあなたの過去と今の状況」に関する調査です。
 たとえば登山を例にレディネス調査を考えると「登山の経験(過去)」「そこで用いた道具(過去)」「これから登山にかけられる予算(今)」などがそれにあたります。ではどんな山に登りたいか、というとこれは欲求であり、状況ではないのでニーズ調査に関わります。

 この考えを当てはめると、4はニーズ調査に当たるので、これはレディネス調査では不適切になります。
 いちおうこれが正解なのですが、わたし自身は今までのコースデザインでこの2つを峻別したものを見たことはありません。調査する場合、どちらもいっしょに一枚の紙で行なっていました。ですので現実では両者の区別が教え手の心の中でついており、必要に応じて想起できればそれで十分だと考えます。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426
051)平成30年度 試験I  問題6 問1 帰納的アプローチ

【こたえ】
3

【解説】
 ここから初級の指導に関する問題となります。まずは指導の基本的な立場に関する設問です。もちろんキーワードは「帰納的」で、これの反対が「演繹的」であることは解答に必須となります。

・演繹・・・一般的、普遍的な事項から個別的・具体的なことをみちびく(明示的)
<たのしい覚え方> 難しい理屈がエンエんとつづく
・帰納・・・個別的、具体的なことから、一般的・普遍的なことをみちびく(暗示的)
<たのしい覚え方> キノウ(昨日/帰納)のことだから具体的に覚えている

 地味な覚え方も学んだところで、実際の問題を見てみましょう。初級の指導におけるこの概念の差は、
・演繹・・・文型などのルールを先に教えてから個別の文の紹介や練習をする
・帰納・・・数多くの例に触れてから文型などのルールを見つけさせる
 ことをほぼ意味します。英語教育で言えば「受身形とはbe動詞+過去分詞(+by 行為者)である」ことを示してから個別の文にいけば演繹的アプローチ、逆に受身形の文をたくさん示してから(身振り手振りのジェスチャーとか絵や写真も動員)学習者が、これってこういうことかな、と理解に至るのが機能的アプローチになります。

 すると、1は「効率的な文法規則が指導できる」なので文型を面倒な手続きなくざくっと先に紹介してしまうので、これは演繹的になります。
 2は無作為な例文、つまり教材用に「加工」された文(=教えやすく、学びやすいがホンモノではない)を使わない、とありますが通常、初級の指導ではどちらのアプローチでもわかりやすい加工文を使うので、これはどちらにも合致しません。
 3が正解です。キーワードは「発見プロセス」です。上の段落の「これってこういうことかな」の言い換えです。
 4は「原理的な文法説明」という演繹法の基本が述べられていますので、これは排除できますね。

 ここからは検定用の記述ではありません。
 わたしは個人的には、加工文ではなく、実際に使われた(マスメディアの使用も含む)、まぎれもない本物の用例(これに対して加工文は「作例」)を多く示して、学習者に考えてもらう帰納的なアプローチが良いと考えています。ほぼすべての学習者は教材の authenticity (本物さ)を好むものだし、できる・できないに関わらず「この教材は本物か否か」を見抜く目は持っているからです。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 407-409
日本語教育のミカタ』 pp. 79-80

2020/01/28

050)平成30年度 試験I  問題5 問5 Can-do statements 

【こたえ】
3

【解説】
 前問と同じく、知識問題です。Can-do statements というのはちょっと語学教育に興味がある方なら聞いたことがあるかもしれません。イメージとしては
自分が~語を使ってコレができる、という能力をデカい基準にぶつけて判定する
 感じを思い浮かべればいいでしょう。たとえば「日常的な簡単な会話なら何とか聞き取れる」という「できるコト」を基準にぶつけると「あなたの聞き取りは初級レベル(A1)」みたいな判断がくだされるわけです。ここで注意することは学力テストと違って、自他を比較することはできない、という点です。キャンドゥはなんでも110円で自分と基準との関係なのです。このことから1が排除できます。
 また「できるコト」は具体的に記述されているので2も違います。そして自己評価(または先生などの他者評価)に基づくものですから、個人の特性が相当強くかかわってきます。
 というわけで、3が答え。なお「自律学習」は「自立」ではありません。
 自律学習とは簡単に言うと「自分が自分の先生になる学習」ということです。これは必ずしも"独学"という意味ではなく、いまやっている勉強を他人事ではなくワガコトとしてとらえ、何を学ぶのか、なぜ学ぶのか、どうやって学ぶのかを自分で選び取り、しかもその評価も自らする、という学習のことです。そこでは当然、「私は今何を学んでいる最中なのか」という意識化(メタ認知)が必要になります。

 以上で問題5の解説を終わります。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』pp.595-599
049)平成30年度 試験I  問題5 問4 標準偏差

【こたえ】
1

【解説】
 知識問題です。用語を覚えていればそのまま解けますね。
 標準偏差 (SD) とは受験者のテストの点がどのくらい散らばっているかを示す値で、小さければ小さいほどちらばりは少ないことになります。

 手計算でこの値を出すのは大変ですが、エクセルではどこからどこまでの数字を計算するかを決めて =STDEVPA という計算をさせれば面倒なことは考えずともちゃんと標準偏差は出てきます。

 ちなみに残りは統計の基本用語で、統計の本は「基礎」と書いてあってもわたしなどにはけっこう難しく、早く「統計の基礎を基礎から教える基礎的な本」が出ないかと待っています。待っていても仕方ないので(←早く書け)、解説に行きます。

 2は簡単に言うと「その問題って、どのくらい手ごわいの?」を示す値で、これを「項目弁別力」と言います。上位の点を取ったグループの平均点ー下位の点を取ったグループの平均で導くことができます。

 3は「これって平均点じゃん」と思うかもしれません(習うまでわたしもそう思っていました。認知言語学とかの解説と比べてこの弱気さは何でしょうか...)。実は全部の点を順に並べた時に中央に来る値は「中央値」といって、平均点とは違います。

 うーんとやさしくしましょう。Nび太、Jァイアン、Sネ夫の3人が(著作権が怖いので匿名)算数の試験をしたら、N君26点、J君35点、S君80点だったとします。この場合、中央値は35点です。でも平均点(平均「値」のほうがカッコいい)は47点になります。

 4は簡単に言うと正答率ですね。ということは、正答率95パーセントという試験の場合は「困難度が低い」になるので、数値が高いとそれが高い、という観点からは、まじめな話、「項目容易度」のほうが名称としてはふさわしいと思います(もちろん、そう覚えると検定で間違えてしまうので勉強するほうは大変ですね)。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』p.451

2020/01/27

048)平成30年度 試験I  問題5 問3 テストの妥当性

【こたえ】


【解説】
 頻出問題というべきものです(ちょっと予備校っぽい出だし)。
 テストにおけるこの「何ちゃら性」というのは、テストそのものの評価、つまり
ーこのテスト、ちゃんとしてるの?
 を図る指標のことです。たくさんあるんですが、ここで問われている「妥当性」と「信頼性」が出題の2大巨頭(大げさ)で、「客観性(別の人が採点しても同じ結果になるかどうか)」がそれに続きます。それぞれ解説していきます。

 妥当性というのは、図ろうとしていることが、そのテストで本当にちゃんと図れてるかどうか、を見る指標です。例えば、熱があるかどうかを調べるときに、体温計という道具は「妥当な」道具ですね。でも気温を図るときに体温計は妥当な道具とは言えません。これが妥当性の意味です。

 もう少しお勉強。これはさらに3つに分かれます。

<その1>内容的妥当性・・・質問の内容がちゃんと図るべきことを含んでいるかどうか。これはまあ分かりますね。妥当性の代表選手といってもいいでしょう。

<その2>基準連関的妥当性・・・これは、あるテストが、それと関係あるほかのテストと内容的に相関している(たとえばこのテストで高得点を取ったら関連する別のテストでも同じように高得点が取れる、といったこと)

<その3>因子的妥当性(または構成概念的妥当性)・・・これはちょっと難しいです。まず因子とは「原因を構成するそれぞれの理由」とでも覚えてください(100パーセント正確ではありませんが、当座は大丈夫です)。
 たとえば誰かのリーダーシップを測定する試験があった場合、リーダーと呼べる人であるには知性、明るさ、積極性、話の説得力などが必要と思われますが、これらがすべて組み合わさったテストなら、たとえば積極的かどうかだけを調べる試験よりもリーダーシップがちゃんと図れそうですね? こういうテストかどうかを見る指標が因子的妥当性です。(積極性だけでリーダーシップを図ったら、やたらうるさいだけの奴がリーダーになってしまい、ほかのメンバーは辛いことでしょう...)

 次は信頼性です。これは同じ条件で同じテストをしたときに結果が安定しているかどうかをみる指標です。同じ個人に同じ条件で同じ問題をさせて同じ結果が出れば安定性のある試験、同じ個人に同じ条件で似たような問題をさせても似たような結果が出れば、それは等質性のある試験といえます。

 以上を踏まえて問題を見ましょう。1は指示が不明確なので答えようがなく、結果は不安定になりますから信頼性がないテスト、3も結果にバラツキが出そうなことは分かりますね。4はテストそのものではなく、環境に問題があります。答は2です。習ってない漢字が出ているという内容的妥当性に問題があるからです。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』pp.447-450


 
047)平成30年度 試験I  問題5 問2 訂正法

【こたえ】
3

【解説】
 日本語クイズ系というか、常識系というか...。要は訂正させる問題を選択すればいいので、推論で正解を導くことが可能です。

 これは訂正法の問題なのですが、ちょっと大きいところから話を進めます。テスト(学力テスト)の分類にはいろいろありますが、一番大きいのは以下の3分類です。
①論文テスト(大学入試の小論文とか、卒業論文など)
②教師・学校レベルの客観テスト(個々の先生が作ったテストや学校の中間テストなど)
③標準化された客観テスト(県立高校の入試問題や大学入試センター試験など)
 客観的に学力が図れるか、妥当な内容かなどといったことから、それぞれの長短を考えてみると良いでしょう。

 で、②③の客観テストの形式はさらに
A. 再生法式
B. 再認法式
 に分かれます。両方とも「再」がついて区別がつきにくいのですが、客観テストはそもそも習ったことをテストの場で「再び思い起こす」のですから、コレは習ってないよ! 初めて見るよ! いや聞いてないっすよ! などということはないのが普通です。

 再生法式とは、頑張って勉強して覚えた内容を、そのまま思い出させる問題です。
例:問:関ヶ原の戦いは何年に起きたか、答えよ。 答:1600年
 上の問題は「単純再生法」にもとづく形式です。で、ほかに再生法として、今回の訂正法、序列法、自由完成法などがあります。

 次に再認法式とは覚えた内容をそのまま出すのではなく、選択肢から選ばせるというものです。二者択一とか、4つくらいから選ばせる多肢選択法とか、組み合わせをさせる方法などです。有名なのはクローズテスト (Cloze Test) で、一定の書き言葉(テキスト)から8-10語くらい置きに空欄を作り、そこに正しい(あるいは意味の通る適切な)語を入れる、というものです。

 ではこれらの知識を踏まえて残りの選択肢を見ていきましょう。
 1は上の解説通り、多肢選択法を用いた「再認法式」ですね。
 2は選ぶのではなく、指示を与えて変換させる「再生法式」です。
 そして4は並べ替えをする「再生方式」です。

2020/01/26

041)平成30年度 試験I  問題3-D(18)係助詞

【こたえ】
 2

【解説】
 古語も入れた助詞の整理問題です。
 いちばん早い覚え方は「係助詞とは現代語の取立て助詞に相当する」というものです。これで正解は即、出ます。まあまず「取立て助詞」が何だかわからないと困るんですが、それは下の「参考」のページをご覧になってください。

 では取り立て助詞と係助詞は何が違うかと言うと、係助詞は「かかり」という言葉が示すように、後につく語にかかる(その形に影響する)という働きも持っていたのです。古文の授業で「係り結び」ということばを聴いたことがあるかもしれません。これがその現象で、係り結びをもたらす「ぞ・なむ・や・か・こそ」の5つは検定必須です。で、この「かかりパワー」が中世にはいわば「ほどけて」しまい、廃れてしまったことになります。

 ついでに残りの選択肢も解説しておきます。
 まず1の接続助詞「か」です。接続助詞というのは動詞や形容詞のうしろについて、続く語とつなぐ助詞のことです(「または」「しかし」などの"接続詞"とは違うので気をつけてください)。古語でも現代語でも同じなのは「ながら」「つつ」などです。日本語教育ではこれらは文型として処理しているのでわかりにくくなっていますね。
 それでは接続助詞の「か」ですが、これは「ぬかも」などの形で使われる、非常にマイナーな用法で、検定の選択肢としては難しすぎるように思います。
 
 次に格助詞の「は」ですが、そもそも「は」は取り立て助詞であって、これは存在しないもの、あるいは正しくないものです(個人的には、間違いを探させる問題以外にこういう選択肢は作らないほうが良いと思います)。

 最後は並立助詞の「ぞ」です。並立助詞というのは、同じ類に属することばを並べるときに使う助詞で、古語でも現代語でも同じものとしては「や」があります。「りんごやみかんを買った」という場合の「や」です。で、並立助詞の「ぞ」ですが、これも存在しないのでバツです。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 72-73
047)平成30年度 試験I  問題5 問1 熟達度評価

【こたえ】
2

【解説】
 評価法の問題は、SLA(第二言語習得)と並んで出題可能性が圧倒的に高いものです。用語も多く、範囲も広いし、数学っぽいし(←偏見)、何よりこの仕事について実践しないと肌感覚でつかめないところがあります。がんばっていきましょう。

 まず問題の熟達度評価、とはどこの国のどこの教育機関でだれが学んだということは抜きにして、「ある人が今、どのくらいできるの?」をはかる評価です。
 これはたとえば「東都日本語学校」の「日本語総合コース」で「春学期」に学んだ「Bクラスの留学生」がどのくらいできるようになったか、という評価とは違います。この場合、一定の期間の一定のコースで学んだという点で共通する人たちへの評価(中高の中間試験みたいなものですね)なので、こういうものは到達度評価のテスト、到達度テストといいます。

 では熟達度はいつはかるか、というとたとえばいろんな国から来たいろんな人をこれからあるコースであるクラスに入れねばならない、という時に適していることになります。こういうテストをプレースメント(配置)テストと言います。これが熟達度テストなので正解です(つまり「プレースメントテスト」の意味も知っておく必要がありますね)。

 残りです。
 1の適正テストは、能力や技能をはかるテストではなく「そもそもあなたは外国語学習に向いてるの?」を試すものです。
 3の定期テストは上で述べたとおり、到達度テストになります。
 単元テストは、あるコースのあるクラスの小さい項目について行なうテストですから、中間テストみたいな大事(おおごと)でなく、小テストですから、やはり到達度テストになります。ただし分類では「診断テスト」とも言います。到達度テストとの違いは、診断テストだけでは単位認定や合否が決められないところにあります。


【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 445-447

2020/01/25

046)平成30年度 試験I  問題4 問5 口頭訂正フィードバック

【こたえ】
4

【解説】
 口頭訂正フィードバックとは「会話の上で」「学習者が自分の誤用に気づくための」「役立つアドバイス」のことです。ここを良く考えれば正解は見つかります。

 1ですが、フィードバックに際して「どういうつもり/どんなことを言いたくて、その発話に至ったのか」は避けて通れない質問です。ですから「確認することができない」は正しくありません。
 次は2で、前の質問で解説したように、口頭訂正のフィードバックではリキャストをはじめとする明示的なフィードバックのほうが種類は多いです。
 3ですが、文字によるフィードバックは読み返すことができますが、口頭では聞き逃すことはできないので、短期記憶にかかる認知的負担(ちょっとの間にたくさん覚えておかなくちゃ行けないので大変)は、むしろ大きくなります。

 というわけで正解は4です。形式ではない、たとえば情意的なフィードバックなどはあまり用いられません。


2020/01/24

045)平成30年度 試験I  問題4 問4 言い直しを求めるフィードバック

【こたえ】
2

【解説】
 問題文内の「フィードバック」とは、外国語教育の現場で最も見聞きする専門用語です。意味は、学習者のアウトプット(言ったり書いたりしたこと)について、教員側からどこが良かったか、あるいはどこに向上の余地があるかなど、気づきや振り返りを与えるための働きかけ全般を意味します。

 で、問題ですが「言い直しを求める」をなーんとなく言い換えると正解に行き着きますね。答えは2の明確化要求です。
 これは訂正を求めるフィードバックなんですが、これのほかの種類を挙げておきましょう。学術的に妥当と思われるのは Lynster & Ranta (1997) です。このサイトは親切なので、読むのが面倒くさい方のために、以下に概要をあげておきます。

1. リキャスト (recast)・・・先生が誤用を正しく言いなおして聞かせること。指導の基本ですね。
2. 明示的訂正 (explicit correction)・・・先生が誤用に対して、ここが間違っているよ、と指摘すること。これも基本ですね。
3. 明確化要求 (classification request)・・・上でやったやつです。誤用に対して「え、それはどういう意味ですか?」などと聞くケースです。
4. 繰り返し (repetition)・・・学習者の誤用を先生がそのまま繰り返すもの。絵、そうなの?というニュアンスをこめて上昇型イントネーションで言う場合が多いです。
5. 引き出し (elicitation)・・・先生が間違いの途中まで言って、残りを学習者にがんばって言ってもらうものです。
6. メタ言語的フィードバック (metalinguistic feedback)・・・1や2と違って、先生は間違いがあることを明らかにせず、情報や質問をすることで、学習者が誤用をしたこと、正しいものは何かなどを気づかせる、というものです。

 これらのフィードバックは「検定的知識」として知って問題を解くだけでは無味乾燥でぜんぜん面白くありません。やはり授業で実践して、そちらの技量も上げていくのが理想だと思います。





【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 458
044)平成30年度 試験I  問題4 問3 ストラテジー

【こたえ】


【解説】
 ストラテジーは英和辞典では「戦略」などと勇ましい語が出ていますが、コミュニケーション上でのストラテジーとは、前の問題で述べたとおり、話を通じさせるためにあれこれとする「工夫」のことです。
 あとはストラテジーの種類を覚えるしかないのですが、日本語クイズ的にやってみると、3の「葛藤」と4の「躊躇」は単に困っている状態で、工夫しているとは言えないですね。「絶望」や「苦悩」が工夫でないのと同じです。それらから逃れるために何とかするのが「工夫」ですから。

 で、候補が2つ残りました。省略は一部を省くことですが、問題文ではある形式を「使わない」なので、2が正解となります。

 追加のお勉強をしておきましょう。問2で紹介したブラウンは誤用が生じる可能性があるストラテジーを、さらに以下のように分類しています。

回避 (avoidance) ・・・上でやったものです。

丸暗記 (prefabricated patterns)・・・意味は良くわからないが使うもの。旅行者の英会話手帳などでは現地で何かあったら「斉藤寝具(→ sightseeing)」と言いましょう、などとありますがこれがその典型です。

個別のありよう (cognitive and persona style)・・・誤用は人それぞれの個性によっても起きるというものです。たとえば過ちを恐れない人はどんどん目標言語を使いますが、必然的に誤用も多くなるわけです。

ネイティブへの質問 (appeal to authority)・・・何かわからないことがあったらその言語のネイティブスピーカー(権威者、つまり authority)に質問するというものです。

言語チェンジ (language switch)・・・どうしてもわからなくなった場合に、相手が理解するかどうか関係なく、自分の母語でしゃべるというもの。もう誤用がどうとか以前の工夫ですが、やぶれかぶれとも言えますね。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 360

2020/01/23

043)平成30年度 試験I  問題4 問2 言語内の誤り

【こたえ】


【解説】
 キーワードの「言語内」に関する知識があれば、そこからの推論で解くことができます。この場合の言語とは、外国人学習者がいま身につけつつある言語、たとえば日本語教育なら日本語ですね(=目標言語, target language)。
 その「内」での誤りということは、「外」、つまり日本語ではない言語の影響とは関係なく起きる誤用のことです。母語と関係なく起きる誤用です。これが言語の誤用 (intralingual errors)です。

 目標言語を学ぶ学習者は誰でも自分の母語を持っていますから、そこの影響を受ける誤用はたくさん見つかります。たとえば英語を母語とする学習者が「2りんご」などと言った場合、母語の two apples という誤用をする場合があります。これは目標言語である日本語のソトである、英語の世界の語順が生み出して学習者の日本語に影響を与えた誤用です。言語「外」の誤用というべきものですが、これは言語の誤用 (interlingual errors)と呼びます。

 言語内の誤り、つまり正解は1です。これはイ形容詞の打ち消し(~くない)、とナ形容詞の打ち消し(~じゃない)を混同しているので、日本語という言語の枠内で起きています。他の例を考えると、たとえばグループ1と2のテ形を混同して「食べった」などとなる場合も言語内の誤りでしょう。

 2は英語の発想である (Could you tell me something?) からやってきた言語間エラーと考えられます。
 3は「それ⇔これ」の誤用ですね。日本語の指示詞は「コ・ソ・ア」の3項対立ですが多くの言語では「this-that」のような2項対立なので、この誤用が起きます。
 4も英語の発想 (I must come here again.) から生じたと考えられます。

 では少し進んだお勉強もしておきましょう☆
   誤用に関するもはや古典というべき規範的な著作は H. D. Brownが1980年に書いた Principles of Language Learning and Teaching ですが、 ブラウンは同書で誤用がどこから生じるかに関して、上記2つのほかに
学習によるもの (context of learning)・・・先生の教え方や教材によって生じる
コミュニケーションストラテジーによるもの・・・やり取りをする上で学習者が何とか通じさせようとする工夫によって生じる(工夫が裏目に出るのですね)
 を挙げています。この分類が次の問題と関わってきます。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 458
043)平成30年度 試験I  問題4 問1 グローバルエラー

【こたえ】
2

【解説】
 誤用に関する基礎的な問題です。グローバル-ローカルという対立がありますが、前者は「全地球的な」というよりも「全体的な」、つまりデカいエラー、言い換えれば聞き手の理解を阻害することになる (frequently impede meaning) 誤用のことです。対するローカルエラー (local errors) とは、その非母語話者と話すのに慣れていない人に対して、理解を阻害することはないけど、いらいらさせる可能性がある誤用ということです(カタカナ語の専門用語は、きちんと勉強したいのであれば、一度はTESOLなどの原本に当たることを勧めます。カタカナ語での簡単な説明は伝言ゲーム的に意味が少しずつ変容して伝わる可能性がありますので)。

 そこで見ていくと1,4はミスとしては軽く、3はテンスにかかわる誤用ですが過去を示す副詞の「先週」があるので何とかなります。ところが正解の2は格助詞のミスで、統語関係にかかってくるので、グローカルエラーになります。

 類似の問題としてはエラーとミステイクの違いも押さえておきましょう。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 455

2020/01/22

042)平成30年度 試験I  問題3-20)日本語内部における変化

【こたえ】
 1

【解説】
 「日本語内部」の「内部」に気をつけてください。これは外来語による変化ではないこと、くらいの意味で、使い手と関係なく言語が変化したという意味ではありません。言語は自律的なふるまいをするように見えても、結局それを変えるのは個々の使い手であり、使い手なしに変化することはありえないからです。この問題は「外圧による変化とは違う変化」を示すと考えられます。

 敬語が相対性を持って使われるようになったという1、これが正しい記述です。特に戦後は、どの場でその敬語を使うのかがより考えられるようになったからです。父親を「お父様」ではなく「パパ」と呼ぶのは敬意性としては逓減していますから、「外圧」っぽいのですが、これは結果であって原因ではないですね。

 残りの間違いの選択肢はどうでしょうか?
 2ですが、もともとの和語ではラ行で始まることばはごく少なく、オノマトペの「らんらん」、それと国文法における助動詞(らし)、接尾語(子ら)程度です。つまり、ラ行で始まることばは外来語なので、内部的な変化ではありません。
 3ですが、日本語がもともと基本的に、音節はV(母音)か CV(子音+母音)なので(これを開音節言語)と言います。漢字語を音読みする外来語(漢語)によって閉音節系の、つまり特殊拍を使う語が増えたので、これも外的な波をこうむった結果です。
 4は3の説明のようなもので、自明です。

 以上で問題3の解説を終わります。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 140-141
042)平成30年度 試験I  問題3-D(19)くれる-やる

【こたえ】
 2

【解説】
 対立というのは構造言語学のことばで、もっと言えば西欧哲学の概念である二分法、A-non A という基本的なものごとの分析に使う道具立てです。

 選択肢のなかですぐ排除できるのが4の「時制」です。くれる-やるのペアが過去-非過去の関係でないことは明白です。続いて3の「相」は、これがアスペクトの訳語であることがわかれば排除できます。アスペクトと時制(テンス)の違いは下の参考を読んでください。

 1は何がいいたいか謎です。神経心理学などでは知能指数を言語的IQと動作性IQに分けてより細かく測定するのですが、「やる」「くれる」はいずれも動作動詞なので、そのへんと用語を引っかけようとしたのでしょうか?

 で、正解は2です。「やる」は to give のぞんざいな言い方で、自分の視点から他者(猫なども含みますニャン)へモノが移動しますが、「くれる」は give me/us を示すもので、ソトの人から自分または身内へモノが移動する意味です。つまり、話者の視点によって出てくるペアということになります。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 140-141

2020/01/21

040)平成30年度 試験I  問題3-D(17)日本語の歴史

【こたえ】
 1

【解説】
 日本語の動詞活用をグループ1、2、3だけで考えていると、こういう日本語史の問題は解くことができません。やはり国文法の知識を持って、それと日本語教育文法を比較・対照させながら考えていくほうが、理解も深まるでしょう。

 出題は「二段動詞が一段化」したものですから、現代日本語の一段動詞(2グループ)意外は排除することができます。すると選択肢3・4の「折る」は五段動詞(1グループ)だから、これは正解にはなりません。

 ここからが知識の問題になります。
 こうなったら、徹底して基礎からやりましょう。まずは「五段」とか「一段」の「」とは何かですが、これは五十音図の横の列のことです。縦の列は「」と言います。アの段なら「あかさたな…」、ウの段なら「うくすつぬ…」のことです。

 では五段動詞とは何かですが、活用の最初の音に、ア・イ・ウ・エ・オの音のすべてが入る動詞のことです。「読む」であれば「よない・よ(ます)・よ・よば・よう」と、マ行における5つの段の音がすべて入っていますね。

 ということは、一段動詞の場合、活用の最初の音が1つしか入っていないことになります。「生きる」でれば「いない・い(ます)・いる・いれば・いよう」で、どの活用もキの音で始まります。これを一段動詞の中で特に「上(かみ)一段動詞」と言うのは、五つの段のウ段を真ん中としたときに、「キ」のようなイ段は上に書かれるからです。ということは、同じく一段動詞の「食べる」は「たない・た(ます)・たる・たれば・たよう」で、どの活用もベの音、つまりエ段の音であり、エ段はウ段よりも縦書きでは下に書かれるので「下(しも)一段動詞」と呼ばれるわけです。

 では二段動詞とは何かと言うと、古語で活用語尾の最初の音が2つある動詞、ということになります。この2つが1つになって現代の一段動詞になったので、二段動詞は一段動詞の先祖と言えるでしょう。

 選択肢1・2の「食ぶ・食ぶる」がそのペアなのですが、この活用は古文の教科書などを見る必要があります。現代語は辞書形(終止形)が「食べる」、連体形、つまり名詞を説明するときも「食べる時間」のように「食べる」で同じですが、昔はこれが別々でした。活用を書くと「たず・たつ・た・たる(こと)・たれば・たよ」で、「ぶ・べ」2種類の音で始まるから二段動詞ですね。厳密には「下二段動詞」です。
 ということは「上二段動詞」もあって、たとえば現代語では「落ちる」である「落つ」、「飽きる」の「飽く」がその例です。

 この終止形と連体形がどちらかに一本化して、さらに今の形になったわけですが、選択肢2つをことばの変化という観点からじーっと見て、2の「食ぶる→食ぶ→食べる」の変化と、1の「食ぶ→食ぶる→食べる」の変化と、どっちがありそうでしょうか? 
 そう、後者ですね。
 前者だと音が一音減って、また増えるというのはなさそうです。知識問題ではありますが、勉強しなかった場合には最後の手段は言語的な推論しかないでしょう(もちろん、それを薦めているわけではありませんが)。
039)平成30年度 試験I  問題3-D(16)日本語の歴史

【こたえ】
 4

【解説】
 日本語クイズ系です。テレビで出題されても、かなりの一般視聴者が正解にたどりつきそうですね。

 選択肢でちょっと混乱しそうなのは古代語と古語の違いです。
 古語は現代では使わない、廃れたことばのすべてです。古代語とは日本語で、上代から中古にかけてのことばを指します。ですから中世の古語は、古代語ではないわけです。

 むかしむかし、と言っても平安後期ころの人が日本語で歌を詠むとき、そこにはやはり古く感じられる語と、その時代なりに新しく感じられる語があったということですね。
038)平成30年度 試験I  問題3-C(15)命題(とムード)

【こたえ】
 3

【解説】
 この問題のキーワードは「命題」です。
 人が話すことばの中身(発話内容)には、その物事の客観的な内容と、その内容に関して話し手がどう考えているかという部分に分かれます。

ー明日地球が滅びるなんてありえない。
 という文であれば、「明日、地球が滅びること」が客観的な内容、「(そんなことは)ありえない」というのが話者の考え、判断といったものですね。前者を命題、後者をムードと言います。

 これを踏まえて問題をみると、文の命題は「私に妹がいること」であって、これは解釈に迷うことはないので、「解釈できないため」と書いてある選択肢の1と4は排除できます。次に「先生、私には妹がいます。」という文は文法的な曖昧さ(=統語的曖昧性)もないので、2も排除できます。

 正解は3、つまり唐突にそんなことを言われて、文の内容はわかるが、なぜいきなりそんなことを言い出すのだろう、と先生は考えることになる、という示唆が示されているという選択肢です。

 以上で問題3-Cを終わります。

 さて以下、無用のことながら(司馬遼太郎かよ)。
 上で書いたムードは「モダリティ」ではないのですか、という質問をしばしば受けます。検定的にはモダリティでもかまいませんし、むしろそちらのほうが通りがいいかもしれません。モダリティは、ただし、感覚を得るための視覚や聴覚などの五感をさしますので、そちらも勉強する場合には区別する必要があります。
 それに言語学に絞っても、両者の違いはいまだ結論が出ていません(Khomutova 2014 など)。個人的には日本語学会などで早く「言表態度」と言う語が採用されてほしいと思います。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 151


2020/01/20

037)平成30年度 試験I  問題3-C(14)解釈が特定できないケース

【こたえ】
 1

【解説】
 これも今までの説明とは関係なく、日本語クイズ的に解くことができます。
 正解は1の「いいよ」で、実際はイントネーションで肯定、否定いずれも取れるのですが、これは2通りの解釈ができます。
 オリジナルの文に補うとすると「うん、いいよ。山田さんも誘おうよ。」といった内容を短くした「いいよ」であれば肯定、「ええ、いいよぉ。山田さんはやめておこうよ。」といったことを短くした「いいよ」であれば否定になります。

 2は後件で「パーティーに来られる」以外の解釈はないので、特定可能です。
 3は、ここでは資料をお持ちください、という肯定の意味になります。ただし
ーもう少しお寿司、いかがですか?
ー結構です。おなかいっぱいなので。
 のように、否定にも用いられるので気をつけましょう。
 4も解釈が不特定になることはないですね。

 ここからは瑣末な議論なんですが、前の問題の続きで「いいよ」があらわす曖昧さが語彙的なのか構造的(統語的)なのかはちょっと考えるところがあります。これを一語の間投詞とみれば語彙的だし、イ形容詞「いい」に終助詞「よ」がついたと考えれば立派な2語文で統語的となります。認知言語学では単語と表現と文の間に明確な線引きはしないので、わたしは語彙的曖昧性と捉えたいところですが、大辞典でも間投詞としての「いいよ」は掲載がありません。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 307
036)平成30年度 試験I  問題3-C(13)構造的曖昧性

【こたえ】
 4

【解説】
 この問題群は優しいのと難しいのが混在しています。まず本文にある、2つの曖昧性を解説します。
 そもそもことばは、限られた音と限られた文法規則の差異だけで森羅万象を説明しようとするのですから、どうしても曖昧なところが生まれます。この「あいまい」というのは、解釈が複数あることです。

 まず語彙的曖昧性 (lexical ambiguity) というのは、単語レベルで解釈が複数あるもののことです。
 たとえば口頭で「いしは強い。」と聞いた場合、「医師・意思」はアクセントも同じ同音異義語ですから、文脈で判断できるとはいえ、話し手がどちらを意味しているのか判然としない可能性があります。
 また「お酒に弱い。」という場合は「弱い」に、「飲むことができない、飲むと気持ち悪くなってしまう」(can't drink much) の意味と、「大好きで目がない」(irresistible) の意味がありますので、これも複数の解釈が考えられます。

 次は構造的曖昧性 (structural ambiguity)です。構造というのは複数のものが関連しあってまとまりになっていることですね。ということは、
・単語が集まって複合語を構成した結果の「あいまいさ」
・単語が集まって文を構成した結果の「あいまいさ」
 がこの曖昧性にあたります。多くは後者で、こちらは特に統語的曖昧性 (syntactic ambiguity) と呼びます。
 たとえば「私が好きな人は田中さんだ。」という場合、私が田中さんを好きなのか、逆に田中さんが私を好きなのか、2つの解釈が可能ですね。文を構成する単語に曖昧さはなくとも、それらを並べて文にしたときに曖昧さが生じるので、これは構造的曖昧性があることになります。

 では問題文を見てみましょう。
 1で使われている「くらい」、2で使われている「ばかり」は、そもそも曖昧さを示す語なので、解釈は曖昧ではありません。別の言い方をすると「数量が曖昧であることがハッキリと示されて」います。これは漠然性に関わることで曖昧性とは関係ありません。
 3は曖昧性も漠然性もない、普通に解釈できる文です。
 正解となる4ですが「大学で財布を落としたのか」「大学でその話を聞いたのか」、複数の解釈が可能ですね。この場合、上の田中さんの文と同じで、構造的曖昧性を持つ文ということになります。

 では上で出てきた漠然性 (fuzziness) ですが、曖昧性とは違い、言語を聞いた人が「なんだかハッキリしないなー」と感じること、ちょっと難しく書くと
・言語とそれを使う人間その関係から生じるわからなさ
 と考えればいいでしょう。
 例を2つ、挙げます。
 まずさっきの問題のように、意味が曖昧な語を使った文は、漠然性を持ちます。「ぐらい、ばかり、ほど、ざっと、だいたい」なんていうのがその例ですね。
 次に「大きい、おいしい、近くの」などと何を基準にそういっているのかわからない語がを使った文もまた、漠然性を持っています。
 
 本当はもう一つ、不確実性 (vagueness)というのもありますが、混乱しちゃうので、今日はここで止めておきましょう☆おつかれさまでした。

 

 

 
035)平成30年度 試験I  問題3-C(12)「ちょっと」

【こたえ】
 1

【解説】
 日本語クイズ系で、検定の勉強をしていなくても解けます。
 正解の1は呼びかけに使うもので、品詞分類では間投詞になります。残りはみな「少し」を意味する程度副詞になります。

 ちょっとは「ちっと」から転じた語、さらに「ちっと」は「ちと」に促音「っ」が加わったものです。時代劇などで侍が「ちと物を尋ねるが...」などという、アレです。
 現代日本語では、誰かが「もうちっと下さい」などと言うのを聞くと、子どもっぽく感じられるか、または妙な感じに響くかですが、「も」をつけた「ちっとも」は「~ない」と打消しを伴って、ぜんぜん~ない、の意味になり、こちらは通常の用法です。


2020/01/19

034)平成30年度 試験I  問題3-C(11)足

【こたえ】
 3

【解説】
 ここからは言語表現の曖昧さを問う問題です。この問題は書き換えると
・選択肢の中から左右・数・部位などが特定されていない「足」はどれか
 となります。

 まず1はタコの足の説明ですが、8本あるので左右は示しようがなく、しかし数は8本、部位は胴体下部ですから、これは特定がなされています。
 次に2ですが、足を組んで座った場合、どちらが上かは明示されていませんが、数はヒトですから2本、部位は下肢全体であることは理解できます。やはり特定がなされています。
 ところが3は、怪我したのが左右どちらの足なのか、はたまた両足なのか、さらに足のどこを怪我したのかも特定されていませんので、曖昧ということになり、これが正解になります。
 最後の4は、足が「速度」を表しています。「目(視力)が良い」と同じ、場所で機能を示すメトニミーです。意味は言語を使うコミュニティの間で共有されているので、これは多義の問題であり、漠然性とは異なる話です。
033)平成30年度 試験I  問題3-B(10)適切な内容の選択

【こたえ】
 3

【解説】
 一読しただけでは、何を問うているのかわかりにくいですね。
・対義語同士の品詞の関係は単純ではない
 ことを最もよく示している文を選びなさい、ということです。ということは、
A.「言語学的に正しい文」であっても、上の条件に合わなければダメ
 という選択肢もあれば
B.「言語学的に正しくない文」なのでそもそもダメ
 という選択肢もあることになります。こういう二重のわかりにくさを孕んだ問題は、あまり検定の出題として適切とは言えません(ところが結構多いのです)。

 では上記を頭に置いて、ひとつずつ見ていきます。
 まず1、「違う」の対義語は動詞である、ですが、対義語は「同じ」ですから、これは上の例でいくとBになります。
 次は2、「間に合う」の対義語は動詞ではない、ですが、対義語はもちろん「遅れる」で動詞、ですからこれもBになります。
 さらに3、「嫌い」の対義語はイ形容詞である、ですが、ご存知の通り「好き(な)」でナ形容詞ですから、これもBです。これなら「言語学的に正しい文を選べ」のほうが、出題の文言としてははるかに適切なはずです。

 正解は4、「若い」の対義語はイ形容詞ではない、ですが、「年取った、老年の、年老いた」などがあり、確かにイ形容詞ではありませんから正解ですが、反義関係が単純でないことを示すのであれば、「若い」には対応する反義語がない、と書いたほうが適切かと思います。

 …作問者の努力は買えるものの、控えめに言っても、これは「残念な問題」です。
032)平成30年度 試験I  問題3-B(9)語種が共通していない対義語

【こたえ】
 3

【解説】
 語彙の種類、いわゆる語種の問題です。「たま、のみもの、おおきさ」など元々の日本語である和語、「球(きゅう)、飲料、規模」など漢字で音読みになる漢語、そして「ボール、ドリンク、スケール」などの外来語です(この3ペア、いずれも同じ概念を違う語種で表しているのがわかると思います。日本語は語彙数が多い言語なのです)。そして、これらを混ぜた「スポーツ飲料、輪ゴム」などの混種語があります。

 この知識をベースに問題を見ると、
 1の「プロ-アマ」はどちらも外来語の対義語ペア、
 2の「砂糖-醤油」はどちらも漢語ですが、そもそも対義語ではありません。「赤-白」「海-山」など、言語学では「対語(ついご)」と言いますが、状況的に対義語の様相を持つ語どうしのペアです。
 3が「頂上(漢語)と麗(ふもと)」で、これが漢語-和語のペアで正解となります。ちなみに対義語の種類ではこれは「ヒャクゼロ」で、山の「中腹」という中間地点があります。
 最後の4は、「水-油」で、和語どうし。これも対語で、互いに混ざり合わない、日常で頻繁に用いる液体どうしのペアというだけです。性格の違いが顕著である両者を水と油だ、とメタファー的に示すのはご存知の通りです。また「水」は温度を軸にした反意関係として「湯」を持ちます。
 

【参考】
日本語教育のミカタ』pp. 101-103

2020/01/18

031)平成30年度 試験I  問題3-B(8)相手の存在を前提としたペア

【こたえ】
 4

【解説】
 (1)の解説通りです。
 患者とは医師に診察してもらう存在ですから、「夫妻」と同じ成り立ちですね。
 残りの選択肢も片付けてしまいましょう。

 まず「看護師-看護婦」は対義語のペアではなく、包含関係(あるいは包摂関係)のペアです。看護師は男女どちらも含みますが、看護婦は女性のみです。男性の看護師が多くいる現代の事情を反映して名称が正式に変わったわけです。「女医」のように「~であるが女である」ことを示すような名称はさほど遠くないうちに、フォーマルな場での日本語としては適切でなくなるでしょう。ただし「女主人公(ヒロイン)」のように、女性を貶める意図がなく、説明で用いられる場合もあり、PC (Political Correctness)という概念だけではあらゆる語を一刀両断にはできないようです。

 次は「社長-部下」です。上司と部下ではないことに気をつけてください。というのは、日本には「一人会社」と呼ばれる、社長一人の会社がおびただしい数、存在しているからです(厳密には個人事業でも法人化していないところもあるので、個人事業主と社長とは類義ですが同義ではありません)。つまり「社長-部下」は文脈において対義語ペアになりうる語というだけのことです。

 3の「兄-姉」はきょうだいの中の年長者という共通項があり、性別の違いで対義関係が成立しているものです。また兄は弟か妹あってこそ、姉も弟か妹あってこそなので、これは4項の対立の中の2ペアと考えるべき組み合わせです。

 
 
030)平成30年度 試験I  問題3-B(7)~副詞

【こたえ】
 3

【解説】
 対義語の問題中で副詞の種類を問う、というちょっとひねった問題です。
 副詞の種類は4つありますので、キーワードつきで解説します。

・頻度副詞・・・どのくらい(の回数) 例 しょっちゅう
・陳述副詞・・・どんな気持ち  例 たぶん どうにか
・程度副詞・・・どのくらい(の量) 例 かなり
・様態副詞・・・どんなふうに 例 ゆっくり ばくばく

 出題の「大きい-小さい」はイ形容詞ですので、話者の気持ちを表す陳述の副詞や、主として動詞にかかる頻度副詞、様態副詞とはいっしょに使いません(言語学では「共起」しない、といいます。文法の分析に使える語だし、ちょっとクールなので自分の使用語彙にすると良いです)。なお、オノマトペは基本、様態副詞だと覚えておきましょう。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 103-105
品詞の別を復習したい場合は
日本語教育のミカタ』pp. 101-103
029)平成30年度 試験I  問題3-B(6)対義語の例

【こたえ】
 2

【解説】
 ここの一連の出題は対義語の種類です。日本語クイズ的に解けるものもありますが、用語の解説を兼ねてやっていきましょう。
 ここで問われているのは一方でなければもう片方、という関係の対義語で、典型的なものは「生-死」のような関係です。相補関係にもとづくものです。他の例としては「同じ-違う」がそうです。「男-女」はLGBTの認識が一般的になった現在、検定で取り上げられることはないし、わたしたちもこの関係は相補的と考えるべきではありません。答えですが「ある-ない」の2ですね。

 では残りのペアの解説です。
 1の「重い-軽い」は、重くない、即、軽い、とは必ずしもなりませんね。「重くもなく軽くもなく、ちょうど良い」という按配の重さがあります。言い換えれば、程度性のあるペアということになります。「暑い-寒い」などがそうで、程度性があるかどうかを見るためには、上で示した「AでもなくBでもなくちょうど良い」に入れて成り立つかどうかをチェックしてください。

 次は3の「始まり-終わり」です。これも程度性があるのですが、ちょうど中間にあたる「真ん中」「半ば」といったことばがありますね。これもまた別のカテゴリーです。「100点-0点」であれば中間は50点になります。

 最後は4の「前進-後退」です。これは特に動作動詞において、逆方向に移動する単語の対立と考えられます。「入る-出る」「つく-離れる」などがそれに相当します。
 似たものとして「結ぶーほどく」「開く-閉まる」などがあります。これは一つの物に働きかける動作の対立で、「そのことをすると反対の状態になる」ペアです。結び目をほどくとバラけて、バラけているものを結ぶと、結び目になりますね。

 こうなると対義語の分類っていくつあるの、という話になりますが、これは研究者で異説あるので正確な数は出題されません。ただし、覚えておくべきものとしてはあと2つあります。

 一つ目は「そもそも同じやん」のペア(なぜか関西弁)。例えばある坂を上から見れば下り坂、下から見れば上り坂といいますが、そもそもは同じものの視点の違いから生じる名前の対立です。認知言語学的にはすごく面白いです。「売る-買う」もそうで、金銭を払うほうともらうほうですから、第三者が見れば1つのシーンになります。

 二つ目は、対立するペアの存在が前提となる反義語です。ちょっと煩雑なんですが「夫-妻」というのは婚姻関係を前提として、「夫妻」でペアになっています。妻に先立たれたら、残念ですがもう夫ではありません。

 長くなりましたが、名称で覚えるよりも、医師の国家試験のように、ペア名で続けて暗記しちゃうほうがいいかもしれませんね(たとえば「相補的」って覚えても、試験会場で相補って何だっけ、となったらアウトですから)。今回の流れでいうと
生死、重軽(おもかる)、ヒャクゼロ、入出開閉、売買、夫妻」でしょうか。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 39
意外と詳しいのが
日本語教育のミカタ』pp. 31-33
(ここの「黒組」は個人的に好きなネタです)

2020/01/17

028)平成30年度 試験I  問題3-A(5)日本語の方言のアクセント

【こたえ】
 4

【解説】
 方言のアクセントは悟性というより感覚や習熟の問題なので、標準語アクセントの話者にはわかりにくいかもしれません。しかしそれはそれぞれの方言話者も、別の方言においては同じ壁を感じるので、ハンディキャップは同じです。記述をじっくり見て、勉強していきましょう。

 まず1ですが、検定対策などでは、標準語のアクセントの大法則として「1拍目が高ければ2拍目は低い、1拍目が低ければ2拍目は高い」というのを習います。たとえば「ニジ」という語であれば前者は「二時」、後者は「虹」ですね。
 ところが、京阪式アクセントを持つ近畿方言の場合、1拍目も2拍目も高い、つまり高高で始まる名詞があります。「英語辞典(えいごじてん)」を仮に高=●、低=○でしめすと「●●●●'○○」となります。「エイ」の2拍目「イ」を下げずにそのまま言ってみてください。

 次の2ですが、標準語も含め、1語に複数のアクセント型を持つ名詞は珍しくありません。音声上の「ゆれ」であり、観察可能な言語変化とみることができます。

 3ですが、名詞のアクセント型の種類数は、方言間で異なりますから、適当ではありません。たとえば東京方言では、拍の数より1つ多いアクセント型があります。2拍の語であれば平板型も含め、3つです(多型アクセント)。一方、語の長さとは関係なく、アクセントの方が~種類ですよ、と決まっている(N型アクセント)地域もあります。たとえば鹿児島方言は2種類しかアクセント型がないので二型アクセントです。

 というわけで正解は4です。南東北から北関東の広い地域が無アクセントであり、最も有名なのは福島県で、ほぼ全県が無アクセント地帯です。
 
 以上で3-Aの解説を終わります。

027)平成30年度 試験I  問題3-A(4)標準語のアクセント

【こたえ】
 2

【解説】
 正解の2は、もうそのままおぼえてください。(1)統語機能のところでやった「テレビ電話」がそうですが、他の例も新聞などで見つけてください。

 残りについては、例外を探してみましょう。自分でノートを作って、考えたり見つけたりした時に書き入れるほうが、人の答えを見る⇒ふーん、よりはるかに記憶の定着が良いものです。

 いちおう例示しますので、ご自身でもぜひどうぞ。
 まず1、「親切(しんせつ)」「三角錐(さんかくすい)」など、確かに多いのですが、「解説(かいせつ)」「埼京線(さいきょうせん)」などは平板型です。

 次に3は、この説明に当てはまる例は「あの蚊が」の「蚊」がそうですが、同音異義語の「あの課が」は頭高型になります(1拍の名詞はこのパターンのとき、尾高とは言いません)。「気がつく-木がつく」のキ、「葉が見える-歯が見える」のハなどもそうですから、この記述は適切ではありません。

 最後は4ですが、3拍+1の「たすいち」とは、後続する助詞のような、1拍の語のことです。尾高型の単語は「たすいち」なしでは判別できないからです(たとえば「端-橋」の違いは後に"を"でもつけないと判別できません)。
 これに気をつけて例を探すと、
・頭高型の3拍動詞・・・とおる かえす
・中高型の3拍動詞・・・なぐる はさむ
・平板型の3拍動詞・・・とまる さがす
 などがありますが、尾高型はないので3種類ということになります。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 207 の表を作りましょう

2020/01/16

026)平成30年度 試験I  問題3-A(3)強弱アクセントの言語

【こたえ】
 4

【解説】
 これはもう知識問題そのものですね。
 中国語は四声でアクセントを区別するので、高低アクセントの典型です。その大陸の南に位置する国の言語、つまりベトナム語・タイ語・ラオ語なども高低アクセントを持つ言語(声調言語)です。ただしカンボジア語のクメール語はアクセントを持たない言語です(と、うちのカンボジア語の先生が言ってました←受け売り)。

 ポルトガル語は、スペイン語・フランス語・イタリア語などと同様のラテン系の言語ですから、強弱アクセントであり、これが正解となります。

 言語の別で問われるのは、アクセントの違いのほかに、類型論的な違い、つまり統語(語順)がSOVかSVOか、また屈折語・膠着語・孤立語の違いが問われる可能性があります。日本語学習者が多い国の言語については、これらをまとめておきましょう。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 11-14
025)平成30年度 試験I  問題3-A(2)超分節的特徴

【こたえ】
 1

【解説】
 設問の「超分節的特徴」がわからないと手も足も出ません。基本からじっくり勉強していきましょう。

 人間の音声の特徴は
・分析的特徴
・超分節的特徴(または韻律的特徴)
 に分けられます。

 分節というのは(文法にも同じ音の「文節」があるので混同しないでくださいね)、言語音を音節にわけることです。うんと簡単に言えば「雨です」と聞いた音を「あ・め・で・す」の4つに分けて考えれば、それは「分節した」ことになります。
 ということは、分節的な特徴とは、単音ごとの特徴ということになります。たとえば、
日本語の「ザ」の音は「ジャ」の音とは違うという区別がそれです。韓国人の日本語学習者の中には、この2つの音をじょうずに区別して言えない人がいます。この場合は音声の指導と言っても、文節レベルでの指導が必要になるわけです。

 では後者の超分節的特徴というのは、分節された音ではなく、連続して話される音について、それがどんな感じの音なのか、という特徴です。
 試みに「あめ」という連続した音を以下のように変えて、実際に言ってみましょう。
・「雨」のように頭高型で発音する(アクセント)
・「飴」のように平板型で発音する(アクセント)
・「あ...め」と、二つの音の間をちょっと区切る(ポーズ)
・オペラのように♪あ~~~め~~~と高らかに吟唱する(抑揚)
 このように特定の音でもそれに飾りをつければいろいろな言い方になるし、極端には歌にもなります。そうする上でのさまざまな特徴が、超分節的特徴です。
 
 ですからイントネーション、リズム、ポーズはそれぞれこの特徴に入ります。で、正解は1のフォルマントなんですが、これは何でしょうか?
 フォルマントというのは音響学の用語で、
・声を響かせるための体内空間の音の値
 です。まだ何のことかわからないですね。お風呂で歌うと声が響くように、人間の出す声も体の中の空間(これがお風呂に当たる部分)で響かせると、聞こえる大きな音になります。具体的には口の中(口腔)、鼻の穴の中(鼻腔)、喉のあたり(咽頭腔)です。で、一般に高い音をより響かせるには狭い空間が、低い音をより響かせるには広い空間が必要です(実験をしたい良い子は、500mlのペットボトルに7割くらい水を入れて、ボトルの口から中に息を吹き込んで出る音と、空のボトルの口に同じようにして出る音を比べるとわかります。後者の方が低い音が出ます)。
 この「響き」を知るためにはスペクトグラムというカッコいい名前(偏見)の機械を使う必要があります。要は、フォルマントというのは教室内で超分節的特徴の指導をするための道具立てではない、ということがわかればいいです(それにしては話が長くなってすみません)。

 ちなみに選択肢以外の超分節的特徴の要素としては、アクセント、無声化(「です」をdesというようなもの)などがあります。
 

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 200
024)平成30年度 試験I  問題3‐A(1)

【こたえ】
 2

【解説】
 アクセントは何のためにあるのですか、機能を問う問題です。

 (ア)の前には「語の意味を区別する」とあります。こちらは例えば同じ「いし」という音でも「意志・石」でアクセントが違えば語の違いが区別できる、ということで「弁別」の機能です。
 弁別というのは聞き慣れない語ですが、心理学の用語で「わかった上ではっきりと区別する」という意味です。音声の違いによって意味の違いをわける、というのは頭でする操作ですから、ただの「区別」ではなく「識別」に近いこちらを使います。

 (イ)の前には「文の構造の違いを示す」とあります。たとえば「テレビ電話を使った授業」という語句の場合、テレビ・電話それぞれを1語として発音すると「テレビと電話を使った授業」になりますし、「テレビ電話」を2拍目の「れ」で上げ、「で」のところで下げる中高型の1語として発音すると、「テレビ電話という機械を使った授業」となります。
これを「統語機能」と言います。意味は「どこまでがひとかたまりなのかを伝える機能」ということです。

 残った2つですが、概念としては明確なものはない、と考えてよいです。
 指示機能、というのはー以下、敢えて言えば、ですがー、アクセントによってその言語の使用者の言語使用域が指示できる、と言ったものが、まあそれに相当するでしょう。社会言語学では「変種の区別化」と言いますが、たとえば「ドラマ」「クラブ」といった外来語を平板型で使うと、その言い方をする人はその語を使い慣れているな、といった印象を与えることができます。
 認知機能というのは頭を使った知的な働きの全部です。ですから弁別機能も統語機能も言ってみれば全部が「認知機能」となります。全部なので、こういう言い方は学術的に「しない」と考えてください。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 200-203

2020/01/15

023)平成30年度 試験I  問題2(5)行く前

【こたえ】
 2

【解説】
 この問題文は、どのような誤用なのでしょうか?
 さっと読み飛ばすとわからないのですが、「買い物に行く前に」と格助詞の「に」をつける必要があります。
 どうして必要なのかというと、「買い物に行く前」なら、行く前の時間のすべてが入ることになります。たとえば「買い物に行く前、私はその店が水曜定休であると知らなかった。」のような文ならOKですね。
 ところが問題文では、後件が、「洗濯を終わらせる」という用事(できごとやイベント)を述べているので、イベントの常として、「それをいつ行なうか」を決めなくてはならないのです。するとたとえば「月曜日」「5時半」といった、時を定める格助詞「に」が必要になるわけです。

 この考え方でいくと、1は「私の両親に会う」3は「薬を飲む」、4は「結論を出す」という用事がそれぞれ後件なので、これらにも「に」が必要です。
 ところが2の「おとなしくしている」は用事ではなく、そうあるという状態なので、この場合は「前」というより「まで(は)」の方が適切になるので、上の3つとは異なる誤用になります。

 副詞に格助詞「に」がつくかつかないかで意味が変わってくる例としては「まで・までに」「いま・いまに」があります。それぞれ以下の(1)~(4)で確認してください。
(1)5時まで、この教室にいてください。(今から5時までずっと)
(2)5時までに、この教室を出てください。(今から5時までのある時の一点において)
(3)いま、龍馬くんは剣術の修行中です。(今現在のこと)
(4)いまに、龍馬くんは日本を動かす人になるだろう。(未来のこと)

 以上で問題2の解説を終わります。
 おつかれさまでした。ご愛読ありがとうございます☆


【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 108
022)平成30年度 試験I  問題2(4)たいてい

【こたえ】
 3

【解説】
 一見すると難しいのですが、実は形式から解くことができます。
 問題文の「たいてい」の後には「8割」という名詞が来ています。個々に目をつけると、
選択肢の1も「1時間」という名詞、2も「全員」という名詞、4も「何グラム」という名詞ですが、3のみは「忘れてしまう」という動詞が来ています。深く考えずに正解を出すことができますが、もう少し詰めていきましょう。
 
 問題文の「たいてい8割くらい残す」は「たいてい」を何と間違ったのかということです。「たいてい」は"一定の時の中でそのことを頻度がかなり大きい"ということです。
 しかし8割というのは頻度ではなく、数量の割合ですから、音的に似たものと間違えたという仮定で「だいたい」が浮かびます。だいたい8割・だいたい1時間・だいたい何グラム、であれば、それぞれ意味が通ります。

 では正解の3はどのような誤用なのでしょうか。
 これは頻度を示す副詞の「たいてい」「よく」を両方使ってしまった誤用です。大まかに言うと「たいてい」は普通そうする (usually) に相当し、「よく」は、しばしばそうすることがある (often) に相当します。つまり「よく」は「たいてい」より頻度が落ちるわけです。

 主な頻度副詞の頻度順は、以下のとおりです。確認しておきましょう。
1. いつも・つねに
2. たいてい・ふつう
3. よく・しばしば
4. ときどき・ときおり
5. たまに
6. あまり~ない
7. めったに~ない
8. ぜんぜん~ない

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 103-104
021)平成30年度 試験I  問題2(3)という匂い

【こたえ】
 1

【解説】
 形式から解くことができる「日本語クイズ」ものです。
 「AというB」の「という」は英語の so called, つまり「~と呼ばれる」の意味で、Aには名詞または名詞相当句が入ります。名詞であればたとえば「雷(A)という現象(B)」ですね。

 名詞相当句というのは1語じゃなくても全体として名詞と考えられるもので、たとえば「犬も歩けば棒に当たる(A)ということわざ(B)」がそれです。
 あるいは人の発言をカッコでくくって引用する場合も、それ全体で1つの発言、1つの名詞として考えられるのでこれもOKです。「『荒川が逃げたぞ!』という声が聞こえた。」などがそれです。

 これで考えると、1は「家族でキャンプをしている」、3は「部屋のどこかから水が流れる」、4は「先週からのどがちくちくする」で、いずれも名詞でも名詞相当句でもありません。そして2は「東京」で名詞ですから、これが正解です。

 なお、「AというB」が「AというA」になると、強調になります。「動物という動物が一斉に山から逃げ出した。」「今日という今日は許さないわよ。」などですね。おそらく同語反復(トートロジー)の派生ですが、面白いですね。


020)平成30年度 試験I  問題2(2)食べろう

【こたえ】
 1

【解説】
 元の文に副詞「一緒に」がついていることから、これは2グループ動詞(国文法では上一段、下一段動詞)の意向形(誘い、自己意思の表明などに使う)に関する誤用と考えられます。

「食べろう」に近いのは、この種の動詞の命令形「食べろ」です。誤用はこれに「う」をつけて生じたと推察できますが、「食べよう」は口頭できわめて多く聞く活用ですから、独学で日本語を習得した学習者であれば、ちょっとリアリティに欠けるようです。

 ところが、原文と同じように"2グループ+命令形+う"の形は選択肢の1-4すべてがそうです。「仲間はずれ問題」の解き方は
・まず形式で見て、わからないときは意味で見る
 のが基本です。

 これに従うと、4だけは命令形「できよう」が命令ではなく、「城はあと数ヶ月でできよう。」のように推測の意味を表すので、こちらが正解となります。つまり、
・無意志動詞の命令形は推測を示す
 ことがわかっていれば、この問題は解けます。類似のものとしては「晴れる」などもそうで、「明日には晴れよう。」が命令ではなく、推測であることはすぐお分かりだと思います。

 4もそう見えますが、動詞「できる」は人の意思が介在しない動詞なので、命令形がありません。

【参考】
日本語教育のスタートライン』p. 98

2020/01/14

019)平成30年度 試験I  問題2(1)気候 → 拮抗

【こたえ】
 1

【解説】
 気候(キコウ=3拍の語)を拮抗(キッコウ=4拍の語)のように発音してしまったので、拍の数が多くなってしまった誤用ということになります。
 選択肢それぞれの拍数を数えてみればできるので、易しい問題ですね。

1. 暇(ヒマ=2拍)→ 居間(イマ=2拍)
・拍数は同じなので、これが上と合わないので「仲間はずれ」、つまり正解です。

2. 西(ニシ=2拍)→ 日誌(ニッシ=3拍)

3. 渡航(トコウ=3拍) → 登校(トウコウ=4拍)

4. 今日(キョウ=2拍)→ 器用(キヨウ=3拍)

 拍を数える場合はもちろん、
・特殊拍(長音・小さい「っ」・ん)は前に来る音と合わせて2拍とすること
 そして
・小さい「ゃ・ゅ・ょ」はその前の音と合わせて1拍であること
 も復習しておきましょう。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 175-177
 もっと基本から勉強したい場合は
日本語教育のミカタ』pp. 42-43 の穴埋めをしましょう。
018)平成30年度 試験I  問題1(15)結果の評価

【こたえ】
 3

【解説】
 これは10と同じで、言語学・言語教育学の知識がなくても解ける、「日本語クイズ系」とでも言うべき問題です。
 
 解き方はもちろん、テンテンの後、つまり後件の節の内容を想像すればいいわけです。以下、わたしの想像および解説です。

1. 経理のことがわからずに今に至っている。
⇒そのことを残念に、あるいは悔しく思う。「おかげ」が皮肉として使われているのに気をつけてください。 例:おまえのミスのおかげで今日の試合はさんざんだったぜ。

2. 大切な20万円を失ってしまった。
⇒そのことを残念に、あるいは悔しく思う。「ばかりに」の後件は失敗など悪いことが続きますね。

3. 第一志望の高校に合格した。
⇒そのことを望ましく、また嬉しく思う。これが「仲間はずれ」、つまり正解です。

4. 大切な40万円を失ってしまった。
⇒そのことを残念に、あるいは悔しく思う。さっきより損失額が倍増していますが、これは例なので気にしないでください。

5. 大切な60万円を失ってしまった。
⇒そのことを残念に、あるいは悔しく思う。さらに損失は増えていますが、もし2, 4, 5の発話が同じ人によってなされたとしたら、どんだけ騙されやすいんだ、となりますね。

 これで30年度の「仲間はずれ」は終わりです。次回からは「誤用の仲間はずれ」に行きます。がんばりましょう☆

017)平成30年度 試験I  問題1(14)応答詞の用法

【こたえ】
 4

【解説】
 応答詞というのは、品詞で言うと「間投詞」の下位グループのことばで
・相手が言ったことに反応したり答えたりすることば
 のことです。「はい、うん」といった肯定的応答詞と「いいえ、いや」のような否定的応答詞があることはわかりますね。ただ、応答詞なしでは肯定・否定ができないかというとそんなことはなく、ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションでも肯否はわかりますし、沈黙がしばしば否定であることはご経験のとおりです。なかには
ーお弁当におはし付けますか?
ーあ、大丈夫です。
 のように応答詞に代わることばもありますね。

 さて問題ですが、応答詞「はい」の機能は4つあり、ここではそのうちの2つが出ています。まずは
①「あなたの依頼や命令がわかりました。だから従います」
 これは相手が「お願いします/~ください/~しないでください」またはそれに類する表現の後で言う「はい」です。
 後続する語を補うのであれば「はい、わかりました」になりますね。英語で考えるならば依頼や命令に対するYes, sir/ma'am.のイエスに相当します。
 実際、選択肢の1と5は「お願いします」2と3は「ください」なので、これらは同じ意味です。ですから正答は4ということになります。

 4の「はい」は以下の意味です。
②「あなたの言っていることは正しいです」
 単純に「はい、そうです」の「はい」です。Yes, it is. に代表されるものですね。

 では残りの2つも抑えておきましょう。先に向けての勉強です。
③「あなたの言うことを聞いています」
 例は以下のような感じです。
ーで、花薗さんと沖縄に行ったんだけどぉ、
ーはい。
 つまり、あいづちの「はい」ですね。これは英語の yes にはない用法なので、しばしば英語圏の人は混乱するようです。

 そして最後
④「はい、どうぞ」「はい、聞いてね」
 これは相手の注意を促すときの「はい」です。以下の例を見てください。
ーあれ? 定期いれ持ったかな?
ーはい。(と、手渡す)
 英語なら Here you are. Here it is. に相当します。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 97-98

2020/01/13

016)平成30年度 試験I  問題1(13)比喩

【こたえ】
 2

【解説】
 わたしの専門のところなので気合入れていきましょう。
 まず検定で比喩(たとえ)の出題がある場合「~のような」「~みたいな」という
「これタトエですよ」というしるしがあるものは出ません。
・例えている語が何を示しているかの性質の別で仲間はずれを探す
 という形式で出題があります。その性質は以下の3つです。

 ひとつめ。似ているものに見立てて例える。これをメタファーと言います。でも名称そのものは出ないんじゃないかな? これからの3つを区別できれば十分です。
 今回の出題で行くと1がそれに当たります。
 「追い風」を言い換えると、企業が発展する上で後押しとなるような現象のことですね。ここではつまり、降って沸いたような、自分たちにはオイシイ現象を、背中を押してくれる風に見立てているわけです。いわば、さしたる努力をしなくても自分を前に進めてくれる、という特性が両者に共通している、つまり特性が似ているわけです。
 これは特性が似ているわけですが、もっと分かりやすいのは、見た目が似ているものです。目玉焼きは本当に人の目を取って焼いちゃうわけじゃなく(こわいよー)、あの料理のカタチが人の目玉に似ている、つまり形態が似ているわけです。パンの"耳"もそうですよね? でもこれはかなりストレートな比喩なので、検定で出るメタファーは、特性とか働きが似ているものになると思います。

 ではふたつめ。何かに隣り合わせて例える。これをメトニミーと言います。メタファーとちょっと似ていますが、これも用語を覚える必要はありません。両者の違いがわかれば、この分野の検定勉強は8割終わったようなものです。
 この「隣り合わせ」は空間的な隣、時間的な隣に分かれます。
 空間的な隣の代表として「入れ物⇔中身」の隣り合わせがあります。たとえば出題の4は
黒板を本当に消しちゃうわけではありません。それじゃマジックです(見たいけど)。そうではなく、黒板という「字の入れ物」で、中身の字をあらわしている訳です。お風呂が沸いたと言う場合は、浴槽というお湯の入れ物で、中身のお湯を示していることになります。そして5の永田町も、町と言う入れ物で、中の人をあらわします。永田町は国会があるので、中の人とはこの場合、代議士とその関係者ということになります。

 もう一つの隣り合わせの代表は「全体⇔部分」をあらわすもので、出題の3がそれです。
洗濯機を回す、を文字通りに捉えると、4隅のどこかを支点にデカい機械をクルクル回すことになります。それじゃ宴会芸です(見たいけど)。そうではなくて、ここでは中のモーターを回すことになります。扇風機が廻っている、というときも同じですね。
 あとは2と5です。2は「生み出す人や場所→産物」を示すものです。産物と言っても野菜などではなく、人が作りだすものすべてで、ここでいう漱石とは漱石の著作です。ベートーベンは聞かない、というときのベートーベンも同じです。
 
 では時間的な隣ですが、検定的には出る確率、低そうです。一応例を挙げると、たとえば、あの選手は今期を最後にユニフォームを脱ぐ、などという場合です。ユニフォームは試合が終わればいつも脱いでいると思いますが、この場合はその脱いだあと、時間的に隣り合った日々、つまり引退後の日々を示します。

 さてみっつめ。これは大きな類と具体的な種の間で例えるものです。専門用語はシネクドキ。ずいぶん難しそうですが、以下をしっかり読めば大丈夫です。
 大きな類と言うのは、図鑑シリーズの表題だと思ってください。「のりもの図鑑」「魚類の図鑑」のようなものです。
 そして具体的な種とは、その表題の中にあるさまざまなものだと思ってください。乗り物ならバスや電車、魚ならマグロやサメをさします。
 この二つの間で「本来、類で言うことを種の名前で言う」「本来、種でいうことを類の名前で言う」のがこの例えです。例を挙げると「サランラップ」は家庭用化学ラップ製品の一種なのですが、ラップ類全体を指すほど有名なので、100均の店で安い「○○ラップ」を買っても「サランラップを買った」と言えます。これが「類→種」の例です。また、「明日のご飯はパスタだ」と言う場合は「ご飯」はもともとの意味は炊いたお米なのですが、食事一般の大きな「類」を示すことばに転じてますね。これが「種→類」です。

 では検定的にまとめておきましょう。
 まずメタファー(類似に基づく)は基本なので、これとメトニミー(隣接に基づく)との差異を問う、今回のような問題が「仲間はずれ」では基本になります。次はメタファーと「類⇔種」のシネクドキとの差異が可能性があります。メタファーなしの出題はまずないと考えて良いでしょう。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 332-337
015)平成30年度 試験I  問題1(12)「~直す」の用法

【こたえ】
 2

【解説】
 選択肢にある「ナニナニ直す」、のナニナニは勉強するとか見るとかなので、この問題は動詞を二つ重ねたもの、つまり複合動詞の問題です。先に来る動詞(前件)と後に続く動詞(後件)との関係はさまざまですので、出題するほうとしては出しやすいジャンルです。

 キーは1の選択肢に出ている「もう一度」です。この文の選択肢は「勉強し直す」ですから、前に中学の教科書で勉強した→もう一度同じことをした、ということが伺えますね。つまり「~直す」は「再度、意思を持ってする」ということです。
 同じ仲間は、3・4・5です。見極めるコツは迷ったら、各複合動詞の前に
・あーあ、やんなきゃなー、と
 という心の声を付け足してしっくりくるか、こないか、です。

 そうすると2の「息子を見直す」は何だか「もう一度、評価を改める」みたいで上の4つを区別がつきにくいのですが、上に述べたコツを入れて考えると
・じゃあ、あーあ、やんなきゃなー、と息子を見直した
 というのは変ですね。これは「~に対して評価をする」と言う意味の「見る」に意思を持つ、と言う気持ちがないからです。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 97-98
014)平成30年度 試験I  問題1(11)「こと」の用法

【こたえ】
 5

【解説】
 用法の間違い探しというのは、要するに意味が違うものを探せばいいので、虚心に頭の中で朗読(というのも変な言い方ですが)すれば解けます。

 1から4はみな「そうしたほうがいいよ」という忠告の意味を表します。そして5の「残念なことだ」の「こと」は"所業・行為・できごと"などの意味ですから、これが「仲間はずれ」で正解です。
 
 でも頭で考えてそうだなー、というのは心もとないので、形式から抑えていきましょう。そもそも「こと」は「物事」という語が示すように、何かが存在したり、あるいは動いたりすることを捉えたことばです。万物は流転するので、「こと」ということばでその流転のある部分を把握しやすく留めた、とでも考えればいいでしょう。英語だと不定詞の名詞的用法の to とか、動名詞の -ing に当たります。下の比較で考えてください。

(1)Swimming is fun.
(2)泳ぐことは楽しい。

 つまり、動詞の辞書形(国文法の終止形)やナイ形に「こと」がつくと、「~という行ない」「~しないという所業」という意味になります。

 ところが、ここからちょっと面倒なんですが、この用法が文末に「だ」「です」などのコピュラ(ここではコピュラが何かは書かないので下の本を読んでね)と一緒になると、急に"経験を経た爺さんが物がわかったように若者にしゃべる感じ"(←偏見)になります。これが1から4の用法で、3などは特にその感じが出ていますね。
 話し手の心の中の態度を示す文法カテゴリー(このことばの意味も下の本でお願いします)を「ムード」と言います。「忠告しつつ実はちょっと威張るムード」とでも言いましょうか。
 なおこの威張り爺さん(←誰だよ)は、さっき書いた「物事」のもうひとつ、つまり「もの」でも登場します。たとえば
(3)そういう時は静かにするものだ。
 のように、「当然」のムードが出てきます。

 なぜ爺さんはこうも威張るのでしょうか? 「こと・もの」はただの名詞化をうながすことば(これを「形式名詞」と言います)だし、コピュラは主語と述語をつなぐ紐みたいなもので、どっちにも威張る要素はありません。
 これは要素分解できることではなく「ことだ・ものだ」という形式そのものが意味を持つ、という考え方をします。
 こういう捉え方をする文法を構文文法と言います。これは先の勉強へのご参考ということで。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 151-152
 コピュラの意味は 同 p.80
   文法カテゴリーについては同 p.143

2020/01/12

013)平成30年度 試験I  問題1(10)イ形容詞の作り方

【こたえ】
 4

【解説】
 この問題、わざわざ検定を受ける方で間違える人はいるんでしょうか?
 でも面白いことに気づきますね。正解、つまり仲間はずれの「黄」はキで音読みですが、残りの「あお・くろ・あか・しろ」はみな訓読みです。つまりことばとしてはこれらの方が古いことになります。ちなみに、「い」をつけてそのままイ形容詞にできるのはこの4つだけです。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 87-88
011)平成30年度 試験I  問題1(8)熟字訓

【こたえ】
 1

【解説】
 熟字訓というのも聞き慣れないことばですね。
 言語学(というか日本語学)での定義は
・漢字連続を構成する単字とその読みとの間に対応関係を求めることができないもの
 となっています。別名を「慣用読み」と言います。
 たとえば普通に読んでいるし、ニュースにでも出てくる「為替(かわせ)」ですが、これは丸ごとでこう読む、という約束で成立している読み方で、「為」が「かわ」などと、分けて読むことができません。わたしの趣味の世界で言うと「ゲシュタルト」であります(検定には出ないので忘れてください)。

 歴史をさかのぼると、1973(昭48年)の内閣告示第一号(このときに音訓の読み方で改定が行なわれました)に初めて「熟字訓」という語が登場し、「玄人(くろうと)」とか「雑魚(ざこ)」など106語がリストとして掲載されました。

 では以上を踏まえて問題を見ていきましょう。
 2から5の「あずき」「みやげ」「あした」「しない」はいずれも上と同じ熟字訓ということになります。ところが1の「こども」は、「こ+とも」で連濁こそ起きていますが、普通に一字ずつの読み方の組み合わせになっていますね。
 というわけで正解は1となります。

 ついでに「当て字」と熟字訓は何が違うか、ちょっとだけ書いておきます。
 熟字訓は当て字の下位カテゴリー、つまりその一種で、読みが訓読みとして見なされるものだけです。当て字にはほかにも種類があり、たとえば「麦酒」などは「ビール」という外来語を当てています。
 何でこんなことが起きたのかというと、漢字を輸入したときに、ある漢字に対応する概念があれば問題ありませんでした。たとえば「そら」は「空」を当ててOKでしたが、こういうのを正訓と言います。
 ところが、たとえば「たび」(履くやつ)などは中国語に当てはまる字がなかったので、「足袋」という漢字2つを当てました。これは熟字訓の起こりです。さっきのビールなどは後世に入ってきたものですから、歴史的には新しい借字になりますね。

 当て字や熟字訓は、かなと漢字を両方使うことを決めた日本語の、宿命のようなものです。検定的にはあと国字とか、重箱読み・湯桶読みなどもざっと勉強しておくといいと思います。


【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 60-63
012)平成30年度 試験I  問題1(9)テ形の音便化

【こたえ】
 2

【解説】
 テ形という概念は、まあ大丈夫ですね。
   日本語教育の勉強を始めたばかりの皆さんには
ーおぉ外国人向けの日本語教育文法は違うなー、
 と思わせる語ですが、母語話者なら動詞のマス形・辞書形からテ形を作るのは簡単ですから、これは省略します。

 それでは音便とは何か、ですが
・その方が言いやすいために、ある語の途中や終わりの音が他の音になる現象
 です。検定的には動詞の音便が取りざたされることが多いのですが、名詞でも形容詞でも音便は数多く見られます。「学校」だって「がくこう」が変わって「がっこう」ですから。これは促音(小さい「っ」)が入った、促音便です。

 では問題に行きましょう。
 もともと動詞の1グループ、つまり国文法でいう「五段動詞」は五段の名のとおり、動詞の活用がカ行・マ行などの「あいうえお」の音で活用します。
たとえば「書く」だったら「書ない・書ます・書・書ば・書う」ですね。
 で、テ形というのは、そのイ段に「て」をつけるものです。上の例だったら「書きて」ですね。ちょっと古文っぽい響きです。でも現代日本語では、これは「書いて」で、キがイに転じてますね。これをイ音便といいます。
 問題の中からイ音便をさがすと、1の「歩く」は「歩きて→歩いて」となります。イ音便はこれ一つなので、他の音便も探しましょう。

 次はさっき出てきた促音便、つまりイ段のところが小さい「っ」に変わっちゃうやつです。すると見つかるのが、4の「鳴る」です。「鳴りて→鳴って」ですから。この仲間もひとつだけ。あと3つ残っています。
 で、3の「飲む」、5の「呼ぶ」に着目しましょう。さっきと同じようにイ段を見ると「飲みて」「呼び手」ですが、今は「飲んで」「読んで」とイ段のところは「ん」に化けました。「ん」は撥音といいます。あまり親切じゃない専門書には「はねる音」と書いてあります。どこが跳ねてるの? 何か元気なの? と思っちゃいますが、まあ「ジャンプ」の「ん」とでも思ってください。で、イ段が撥音に変わるので、これらは2つとも撥音便です。

 最後に残った「話す」を見ると、「話して」。音便なしです! 
 デカ長、コイツが犯人です、じゃなくて正解です!(←誰だよこいつ)

 まとめると、1グループ(五段動詞)の音便化には、上でやった順でいうと
・イ音便
・促音便
・撥音便
 の3つがあり、それと音便にならないのがあるわけです。

 こういう問題に習熟するには、アクセントのパターンと同じで、自分でほかの仲間を探すのがいちばん良い方法だと思います。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 87-88

2020/01/11

010)平成30年度 試験I  問題1(7)漢字の読みとつくり

【こたえ】
 5

【解説】
 「ごんべん」の漢字が5つ、並んでいます。
 この5つはいずれも左右に分けることができます。この何かと何かを足して一字にした漢字のほとんどは、片方が漢字の意味が属するカテゴリーを示し(たとえば「にんべん」なら人カテゴリー、「さんずい」なら水カテゴリー)、もう片方が漢字の音を示します。これを「形声文字」と呼ぶのは学校で習った方も多いでしょう。

 この知識を踏まえて漢字を見ていくと、全部「ごんべん」なので「言葉カテゴリー」なのは良いとして、右側を見ていくと「義・方・呉・忍・十」と単独で漢字になるものばかりです。

 では、この5つを音読みにしてみましょう。
・義は「ぎ」で、ごんべんが付いた「議」も同じ読み方
・方は「ほう」で、ごんべんが付いた「訪」も同じ読み方
・呉は「ご」で、ごんべんが付いた「誤」も同じ読み方
・義は「ぎ」で、ごんべんが付いた「議」も同じ読み方
 ところが、
・十は「じゅう」ですが、ごんべんが付いた「計」は「けい」である
 ことから、これが「仲間はずれ」とわかります。

 つまり「計」は形声文字ではないことになります。
「ごんべん」は元々、「山」「川」と同じ象形文字でした(非漢字圏の学習者が最初に興味を持つ、アレですね)。で、右の「十」は「一がたくさんある」ことを示したそうですが(なぜ縦棒が付くと"たくさん"なのか、わたしはわかりません。厚切りジェイソン先生と同じです why Japanese people?)、このように
・漢字を構成する点や線が、数や位置といった抽象概念を表している字
 を「指事文字」と呼びます。"コトを指す字"ですね。指示じゃないので(変換するとこれが最初にでますので)気をつけてください。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 58-63

2020/01/10

009)平成30年度 試験I  問題1(6)転訛形

【こたえ】
 2

【解説】
 転訛という語は日常ではまず見聞きすることはないですね。定義ですが、
・同じだと認められる語句が、異なる音形で現れるもの
 のことです。典型的な例は「食べてしまった」が「食べちゃった」になるようなものです。研究による分類も進んでおり、もはや転訛形のほうが標準と思われるもの(たとえば
「食べるんだ」←元は「食べるのだ」)や、転訛形になってもフォーマルさが落ちないもの(たとえば「食べてる」←元は「食べている」)などがあります。

 1の「やめとく」ですが、元の形は「やめておく」。つまり動詞の複合において転訛が生じています。
 3の「何してんの?」は「何しているの?」で、同様に「して+いる」の複合における転訛です。文型シラバスでは「テ形+いる」の方が通りが良いですね。
 4の「もう帰らなきゃ」は「もう帰らなければならない」で、ちょっと複雑ですが、動詞「帰る」がナイ形になってイ形容詞と同じ活用の振る舞いをし(例 安くなければ)、それに動詞「なる」が複合しているので、理屈は上の2つと同じです。
 5の「やっちゃいなよ」は何だかタランティーノの Kill Bill みたいですが(別にわざわざ見る必要はありません。長いし)、「やってしまいなよ」、つまり「やる」「しまう」の動詞の複合に関わります。

 で、正答の2ですが、これだけが動詞の複合による転訛ではありません。これは促音を入れて強調する転訛で、言語学では音転訛あるいは音声転訛形といいます。例としては「とっても」(とても)、「やっぱり」(やはり)などがあります。

 一般に転訛形は音が減少してフォーマルさも減少するのですが、音転訛のときは上記の例や「だめって言った」(だめ言った)のように、長音節化してわずかに音数も増加するものもあり、興味深い現象です。


2020/01/09

008)平成30年度 試験I  問題1(5)短縮語形成

【こたえ】
 3

【解説】
 これは語形成に関する特別な知識がなくても解けますね。むしろ、個々の語の意味を知っているかどうかがポイントになります。

 1のスタメンは「スターティング・メンバー」で、前件の語と後件の語の2字分を取って造語したものです。外来語のこうした縮約は4拍が好まれることが多いようです。
 2は「アカデミック・ハラスメント」で、ハラスメント系を「Xハラ」とするのはセクハラ、パワハラなどだいぶ広まってきた印象です。
 4は「リモート・コントローラー」で、もはや元の語が意識しにくいほどに根づいています(多くの人は「リモート・コントロール」と答えそうです)。ちなみに「コン」の省略による縮約は「パソコン(コンピューター)」「ファザコン(コンプレックス、ただし英語は the Electra complex)」など数多く見られます。
 5は「プロフェッショナル・レスリング」で、プロフェッショナルの縮約「プロ」は日本語の接辞になっており、「プロ集団」など混種語も観察できます。さらに言うとプロレス大好きな女子は「プ女子」と呼ばれるそうで、縮約がさらに進みました。これはいわゆる「腐女子」からの連想を受けているのでしょう。
 で、例外は3の「エアロビ」で、ご存じのとおり「エアロビクス」の一語の縮約ですので、こちらが「仲間はずれ」です。

 今回は外来語の縮約でしたが、本来的に日本語で多いのは「都響(=東京都交響楽団)」のような漢字の縮訳語で、出題もありそうです。「東フィル(=東京フィルハーモニー)」のような混種語もあります。さらに英語の IT (Information Technology), CIA
(Central Intelligence Agency) などは特に頭文字語(アクロニム)と呼ばれます。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 33-36

2020/01/08

007)平成30年度 試験I  問題1(4)アクセント

【こたえ】
 1

【解説】
 標準的なアクセント問題です。
 1以外はすべて中高型のアクセントパターンですが、1の「いっきいちゆう」のみは平板型になっています。

 東京アクセントに習熟していない方は、NHKニュースや名作の朗読などのシャドーイングをお勧めします。ただシャドーイングはかなり疲れる活動なので、自分の言い方との差異に気をつけてじっと聞くだけでも勉強になります。
 個人的なお勧めは「表現読み」の実践者、渡辺知明さん。手始めにこちらなどいかがでしょうか。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 202-207, 特に207ページの表
もっと最初から勉強したい方は
日本語教育のミカタ』 pp. 52-55
006)平成30年度 試験I  問題1(3)音節数

【こたえ】
 2

【解説】
 前の問題とは違い、こちらは現代日本語の発音に即した良問です。
 問題を解く鍵は「長音節」にあります。

 音に関する現代日本語の標準的な規範は「かな1文字が1つの短音節」ですね。たとえば「ねこ」は2つの短音節(2音節)、「さくら」は3つの短音節(3音節)からなっています。
 ところが短音節に「ん」「っ」「-」がつくと、これが長音節になります。
 たとえば「神田(かん+だ)」「切手(きっ+て)」「蒸気(じょう+き)」はいずれも長音節1つと短音節の計2音節からなっています。

 ちょっと複雑なのもやってみましょう。「国交断絶」はどうですか? 「こっ+こう+だん+ぜ+つ」ですから「長(こっ)長(こう)長(だん)短(ぜ)短(つ)」の計5音節となりますね。

 ここまでわかれば、もう解けます。
・1の「ちょうせん」は「長+長」の2音節
・2の「きょういく」は「長+短+短」の3音節
・3の「さんぽ」は「長+短」の2音節
・4の「けっか」も「長+短」の2音節
・5の「かたん」は「短+長」の2音節
 というわけで、2が正答となります。

 なお実際は長音節になるものは上記だけではないのですが、まずはこの問題が理解できるようにしてくださればと思います。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 pp. 175-177
もっと基礎から勉強したい場合は
日本語教育のミカタ』 p. 60
005)平成30年度 試験I  問題1(2)二重母音の取り入れ方

【こたえ】
 5

【解説】
 (1)に続いて、また「二重」の話ですが、これは率直に申し上げて、あまり良問とは言えません。というのは「二重母音」という用語自体が定義も実例もきっちり境界線が引けるものではないからです。でもまあ、仕方ないので進めますね。

 二重母音というのは、
・ひとつの音節中に二つの母音があるもの
 が一応の定義です。ところが専門の論文、たとえば小野(2011)などにあるとおり、運用される音から二重母音を判断するのは、とても難しいものです。音声記号での表記と、実際に個々の人がそれを発音するときのズレや乖離がはなはだしいためです。
 ちなみに日本語の二重母音は簡単に長音に転じてしまうので、やはり表記と運用の間にはズレがあります。「訂正」はかな表記こそ「ていせい」ですが、実際は「てーせー」と発音されます。

 でもまあこれは本問題とは関係ないので(脱線ごめんなさい)、理屈に即して進めます。
 出題は二重母音の「取り入れ方」なので英語の二重母音を日本語に「取り入れた」とき(つまり英単語を外来語表記にしたとき)仲間ハズレはどれでしょう、ということです。着目するのは、それぞれの単語の長音のところ、表記では「-」に当たる部分が元の英語ではどうですか、ということです。

 1は「ゲーム (game)」で音声記号は [geim]、2は「セールスマン (salesman)」で発音記号は[seilzmən]、3は「メールボックス (mail box)」で[meilbɑx]、4は「ホットケーキ (hot cake)」で[hɑtkeik]、つまりいずれも二重母音として [ei] が入っています。ところが「レインブーツ (rain boots)」は [reinbt] で、これは二重母音ではありません。
 よって5が正答となります。

 なんか英語の発音記号の問題みたいだなー、と思った方、そのとおりです。
 試験会場でこの問題を見て正解にたどり着いた方は、おそらく現代英語の二重母音が規範的には [ai [əʊ [iə [ʊə [aʊ [ɔi [eə [ei] の8つである、という知識は持たず、単純に「げーむ」「せーるす」「めーる」「けーき」は伸ばすところが「え」の音だなあ、でも「ぶーつ」は「う」の音だなあ、じゃあ違うコレを選ぶか、といった頭の使い方をしたと予測できます。こうなると二重母音がどうこう以前の話であり、気の利いた小学生でも解ける問題になっています。
 加えてホットケーキは和製英語に近く、実際は pancake であること、ブーツもデフォルトとしての単語は boot であることなどを考慮すると、この問題が出題後の反省会(たぶんあります)で多少の批判を浴びたことは、私のような音声学が専門でない者にも想像がつきます。

 個人的には二重母音よりもさまざまな表記と音のズレ、あるいは半母音とわたり音などを勉強するほうが、現場ではずっと役に立つと考えます。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 195-196.

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート 【こたえ】 4 【解説】  ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、 いろいろ困った人に周りの人が支援すること です。それさえわかれば、正解に近づくこ...