2020/01/08

005)平成30年度 試験I  問題1(2)二重母音の取り入れ方

【こたえ】
 5

【解説】
 (1)に続いて、また「二重」の話ですが、これは率直に申し上げて、あまり良問とは言えません。というのは「二重母音」という用語自体が定義も実例もきっちり境界線が引けるものではないからです。でもまあ、仕方ないので進めますね。

 二重母音というのは、
・ひとつの音節中に二つの母音があるもの
 が一応の定義です。ところが専門の論文、たとえば小野(2011)などにあるとおり、運用される音から二重母音を判断するのは、とても難しいものです。音声記号での表記と、実際に個々の人がそれを発音するときのズレや乖離がはなはだしいためです。
 ちなみに日本語の二重母音は簡単に長音に転じてしまうので、やはり表記と運用の間にはズレがあります。「訂正」はかな表記こそ「ていせい」ですが、実際は「てーせー」と発音されます。

 でもまあこれは本問題とは関係ないので(脱線ごめんなさい)、理屈に即して進めます。
 出題は二重母音の「取り入れ方」なので英語の二重母音を日本語に「取り入れた」とき(つまり英単語を外来語表記にしたとき)仲間ハズレはどれでしょう、ということです。着目するのは、それぞれの単語の長音のところ、表記では「-」に当たる部分が元の英語ではどうですか、ということです。

 1は「ゲーム (game)」で音声記号は [geim]、2は「セールスマン (salesman)」で発音記号は[seilzmən]、3は「メールボックス (mail box)」で[meilbɑx]、4は「ホットケーキ (hot cake)」で[hɑtkeik]、つまりいずれも二重母音として [ei] が入っています。ところが「レインブーツ (rain boots)」は [reinbt] で、これは二重母音ではありません。
 よって5が正答となります。

 なんか英語の発音記号の問題みたいだなー、と思った方、そのとおりです。
 試験会場でこの問題を見て正解にたどり着いた方は、おそらく現代英語の二重母音が規範的には [ai [əʊ [iə [ʊə [aʊ [ɔi [eə [ei] の8つである、という知識は持たず、単純に「げーむ」「せーるす」「めーる」「けーき」は伸ばすところが「え」の音だなあ、でも「ぶーつ」は「う」の音だなあ、じゃあ違うコレを選ぶか、といった頭の使い方をしたと予測できます。こうなると二重母音がどうこう以前の話であり、気の利いた小学生でも解ける問題になっています。
 加えてホットケーキは和製英語に近く、実際は pancake であること、ブーツもデフォルトとしての単語は boot であることなどを考慮すると、この問題が出題後の反省会(たぶんあります)で多少の批判を浴びたことは、私のような音声学が専門でない者にも想像がつきます。

 個人的には二重母音よりもさまざまな表記と音のズレ、あるいは半母音とわたり音などを勉強するほうが、現場ではずっと役に立つと考えます。

【参考】
日本語教育のスタートライン』pp. 195-196.

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