【こたえ】
1【解説】
カルチャーショックでよく出てくる、U曲線とそれが重なったW曲線の問題です。検定で始めて勉強する方であれば、川岸ら(2014)の研究ノートが詳しく、また論文ではなく研究ノートなので情報が必要十分なだけまとめられており、おすすめです。
適切なもの、つまり正解は1なのですが、他の選択肢も解説しておきます。
2ですが、Wカーブは適応の状態を示すカーブです。つまり曲線が上向いているときは適応状態にあり、下に向いているときは文字通りの「落ち込み」、つまり不適応の状態にあります。
3も「周囲との接触度合いを示す」ものではないから不正解です。
4はなかなかの引っ掛け問題です。異文化から帰国した後だと、Wの字の右のVだけになってしまいます。左のVはまず異文化への移動、そこで適応して右のVでさらに自文化に再び入ってからの不適応状態 (re-entry shock) を経験し、またそれに適応していくことになります。
ただし、対策本ではU字、W字とも確立された理論のように書いてありますが、実はどちらも仮説の域を出ないもので、さまざまな知見を引っ張ってきて作っている検定では、これ以上の詳しいことは問えないでしょう。
たとえばビクトリア大学のコリン・ワードはその著書 Ward, Bochner & Furnham (2001) で、留学した学生がU&Wでは記述のある異文化接触におけるハネムーン期などは経ず、当初の1ヶ月がもっとも depressed (暗澹たる気分)であったという経験を調査し、以下のように述べることでこの曲線への批判を匂わせています(訳は荒川)。
In contrast to beginning cross-cultural transition in a state of euphoria as proposed by Oberg (1960), it is more probable that the transition commences in a state of at least moderate distress.
(カルチャーショックという概念を提示した)オバーグが1960年の著作で述べた、異文化接触の初期において人が多幸感を持って推移するという見解とは対照的に、この推移はどう少なく見ても中程度の精神的苦痛をもって始まるということはかなり言えそうである。
対策本の事項を記憶するのに手一杯かもしれません。でもご自身が日本語教師としてやっていくうちに、その覚えた事項にも他の人文学/社会科学の諸理論に対してと同じように、どんどん新しい疑問が提示されていきます。そしてそれらを検証する試みがなされていきます。このことは覚えておいてください。
【解説】
『日本語教育のスタートライン』pp. 377-381
追加の事項については p.5 もお読みください☆