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【解説】
用法の間違い探しというのは、要するに意味が違うものを探せばいいので、虚心に頭の中で朗読(というのも変な言い方ですが)すれば解けます。
1から4はみな「そうしたほうがいいよ」という忠告の意味を表します。そして5の「残念なことだ」の「こと」は"所業・行為・できごと"などの意味ですから、これが「仲間はずれ」で正解です。
でも頭で考えてそうだなー、というのは心もとないので、形式から抑えていきましょう。そもそも「こと」は「物事」という語が示すように、何かが存在したり、あるいは動いたりすることを捉えたことばです。万物は流転するので、「こと」ということばでその流転のある部分を把握しやすく留めた、とでも考えればいいでしょう。英語だと不定詞の名詞的用法の to とか、動名詞の -ing に当たります。下の比較で考えてください。
(1)Swimming is fun.
(2)泳ぐことは楽しい。
つまり、動詞の辞書形(国文法の終止形)やナイ形に「こと」がつくと、「~という行ない」「~しないという所業」という意味になります。
ところが、ここからちょっと面倒なんですが、この用法が文末に「だ」「です」などのコピュラ(ここではコピュラが何かは書かないので下の本を読んでね)と一緒になると、急に"経験を経た爺さんが物がわかったように若者にしゃべる感じ"(←偏見)になります。これが1から4の用法で、3などは特にその感じが出ていますね。
話し手の心の中の態度を示す文法カテゴリー(このことばの意味も下の本でお願いします)を「ムード」と言います。「忠告しつつ実はちょっと威張るムード」とでも言いましょうか。
なおこの威張り爺さん(←誰だよ)は、さっき書いた「物事」のもうひとつ、つまり「もの」でも登場します。たとえば
(3)そういう時は静かにするものだ。
のように、「当然」のムードが出てきます。
なぜ爺さんはこうも威張るのでしょうか? 「こと・もの」はただの名詞化をうながすことば(これを「形式名詞」と言います)だし、コピュラは主語と述語をつなぐ紐みたいなもので、どっちにも威張る要素はありません。
これは要素分解できることではなく「ことだ・ものだ」という形式そのものが意味を持つ、という考え方をします。
こういう捉え方をする文法を構文文法と言います。これは先の勉強へのご参考ということで。
【参考】
『日本語教育のスタートライン』pp. 151-152
コピュラの意味は 同 p.80
文法カテゴリーについては同 p.143