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【解説】
コミュニカティブ・アプローチというのは頻出用語のひとつですが、実際に授業でも見たことがないと、
ーなんか「コミュニケーション」と似たことばだなー
と思う以外、見当もつかないと思います。
そこでコミュニカティブ・アプローチと聞いたら、10人ほどの外国人学習者がゲームをしたり、または役割を決めて会話をしたりしている(=役割遊び role play) ところを想像してください。
楽しそうですね? でも、どうしてでしょうか?
ある外国人が「日本語が話せる」というとき、それはたとえば一人で
ー昨日、名古屋へ行きました。
などと「文を口にできる」という意味ではありませんね。やはり自分が話し手なり、聞き手なりになって、相手と「会話」をしてこそ日本語が話せる、日本語ができる、となるはずです。これを教室での出来事に置き換えると、先生のあとについて何か文が言える、というだけでは、その文をおぼえて自分の部屋で再現できるかもしれませんが、「話せる」わけではない、ということがお分かりいただけるでしょう。
コミュニカティブ・アプローチは、たとえば先生が一定のルール、たとえば学習者2名に対して
・陳さんはカフェラテを注文したがコーヒーを持ってこられた客
・ティムさんは注文を間違えてしまったウェイター
などと演じる役目を指示し、あとはその役柄に応じて自由に相手と話したり、相手の日本語を聞いたりする活動です。
つまり、その枠内では、意味のある会話をしなければならず、それが教室の外での日本語のやりとりにー少なくともひとりで「昨日、名古屋へ行きました」を口にするだけよりー近いわけです。
問題にある「意味交渉 (negotiation of meaning)」とは、
・会話において、互いにわからないことがないように工夫して話すこと"
です。ルールの枠内で好きに話すのであれば、その目標に向かって陳さんもティムさんも工夫するので、ここは4が正解となります。
では残りの選択肢はどう排除できるのでしょうか?
まず、厳密には違うんですが、「検定的世界」の中では
・コミュニカティブ・アプローチの反対概念はオーディオ・リンガルである
と、ざっくり考えてください。
別の問題で触れると思いますが、オーディオ・リンガルとは耳と口を使って先生の言うことを忠実にリピートしたり、その内容をちょこっと変えて言ったりする活動で、さっき出てきた「意味交渉」などはありません。
なんでそんな単調な活動をするのかというと、オーディオ・リンガルを考えた人は、外国語をなんか話さなくちゃいけないときに、普段から話す習慣づけをしていればビビったり口ごもったりしなくて済む、という信念があるからです。
つまり
・オーディオ・リンガルのキーワードは「習慣」である
と言い切って大丈夫です。で、これはさっき書いたようにコミュニカティブ・アプローチの反対なので、2と3は排除できるわけです。
では1ですが、これをわかりやすく書き直すと
・学びの最初のころは日本語で聞いてわかることを先におこなって、日本語で話すことの気持ちの上でのプレッシャーを避ける
ということです。
コミュニカティブ・アプローチではルールの下でどんどん話させるので(聞かせもしますが)、これは排除、ということです。
目標言語って何だとか、意味交渉がわからない、とかいろいろありますが、まずは上記を理解していただければOKです。ホリエモンではありませんが「何もなかった自分に小さなイチを足していき、それをベースに次に進んでいく」のは、理にかなった学び方です。
【参考】
『日本語教育のスタートライン』p. 438
もっと初めから学びたい場合には
『日本語教育のミカタ』p. 139