【はじめに】
検定の問題をここにそのまま貼り付けるのは違法ですので、すみませんが凡人社の過去問やご自分が持ち帰ったものを参考に、ごらんください。
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【解説】
ご存知のとおり、問題1は所定のタグ(上で言えば「二重調音」)から設定されるカテゴリーの外にあるものを答える問題です。言い換えれば「仲間はずれはどれだ問題」です。
最初のこれは、古い入試英語のような、発音記号から音を類推する問題です。まずは二重調音というのがなんだかわからないと話にならないので、その解説から行きます☆
まず調音というのは、音を調整することではなく、喉とか口腔の歯茎とか舌とかを使って、言語の音を作ることです。調理は料理を作ること、調音は音を作ることです。
で、"二重"なんですが、このことばをちょっと見ると
ーこのおせち料理は二重の段になっている。
のように2つの音が連続してみるみたいに思ってしまいますが、そうではなくて、二重調音というのは
・口の中で2つの操作をして作られた音
のことです。調理の見立てで言うと、煮豚だったら豚肉を「煮る」1回で済みますが、酢豚だと豚肉を「揚げる」、さらに「炒める」と、2回するようなものです。つまり音の作り方としては複雑になります。
で、正答の [w] なんですが、これ、日本語のワ行の音とは違います。「音声仲間はずれ探し」の場合、
・音声記号で日本語の音を間違えやすいものが出題されやすい
のです。日本語のワ行の音は音声記号では [ɰ] で表記されます。ダブリューみたいだけど、下が尖ってなくて右下がびよーんとしてますね。これが日本語の「ワ」の子音です。では2つの音の正体を、並べて比べてみます。
・正答のほう、つまり英語の [w] のほうは…有声両唇軟口蓋接近音
・一方、日本語のワ行、つまり [ɰ] のほうは...有声軟口蓋接近音
長くてイヤになりますね。徳川次郎三郎源朝臣家康みたいに長いです(これは徳川家康の本名)。でもがんばって、両方見比べてください。英語のほうは「両唇(りょうしん、上下のクチビル)」という語が多く入っていますね。
この呪文のような子音の名前は、徳川家康と同じで、ちゃんと順番があります。
まずは、
・その音が声帯を震わせる音(有声・・・例は「ダ」)か震わせない音(無声・・・例は「タ」)か、
次は
・その音をどこで作るか(調音点といいます)
そして
・その音をどうやってつくるか(調音法といいます)
です。
で、英語を見ると調音点が「両方のクチビル」「軟口蓋」と2つありますね。これが二重調音であるという理由です。
では具体的に考えていきましょう。
日本語の「わ」(つまり音声記号で"びよーん"のやつ)は、どうやって作るのでしょうか? ちょっと「泡、泡、泡」と3回口に出して「あ」「わ」の違いを観察してください。「わ」の時はほんの気持ち、上あごの奥の柔らかいところ(ここが軟口蓋です)が狭まる感じがありますね? つまり軟口蓋とその下のところを近づけて(=接近させて)作り出す音が、有声軟口蓋接近音なのです。
次に、英語の What? を発音してみましょう。アメリカ英語っぽい、大げさな音作りをしたほうがわかりやすくなります。部屋のドアを閉め、誰も自分を見ていないことを確認してから両手を Oh ! のように広げて "What?" を言ってみてください。
日本語のときの「びよーんの"わ"」の口の形では、良い音(良いのか?)は出ませんね?
ちょっとクチビルをすぼめて、勢いよく呼気(吐く息のことです)を出さないと、What?
は作れません。つまり英語の [w] は、日本語の「わ」に加えて、両唇も調音に使わないと作れない、二重母音ということになります。
いちおう残りの選択肢の音、つまり調音点が1つの音の名前も書いておきますね。
まず1の [ɸ] は、無声両唇摩擦音で、日本語では「ふ」の子音です。音声記号の形が漢字の「中」に似ているので、わたしは東京外国語大学がある場所にちなんで「ふちゅう」と学生に覚えてもらっています。
次は2の [kʰ] で、これは無声軟口蓋破裂音の、かつ有気音。これは難しいです。有気音(とその反対の無気音)というのは中国語の発音の道具立てです。音声記号の右上に小さい h がついているのは、有気音のしるしです。
さらに3の [ʃ] は無声後部歯茎摩擦音ですが、これは英語の発音記号で見たことがある方も多いと思います。シュッ、のように聞こえる音でスペリングでは sh で書かれる語、たとえば shock とか dash の音がそれです。
最後の5、[ç] は無声高口蓋摩擦音。これは日本語の「ひ」の子音です。ハ行は非常に曲者ですので調べておくと良いでしょう。
【参考】
『日本語教育のスタートライン』p. 179-191