2020/02/05

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート

【こたえ】
4

【解説】
 ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、いろいろ困った人に周りの人が支援することです。それさえわかれば、正解に近づくことが出来ます。

 1は適切つまり不正解ですね(ややこしい)。要はニーズと支援内容が一致したとき効果的だということで、当たり前です。慰めがほしいときには励ましよりも慰めをあげましょう。
 2も適切です。相手があんまり困った状態にあったら、支援したところで限られた効果しかない、というのは常識的な推論です。
 3も適切ですね。どんな悩みを抱えているかで支援の内容は変わってきます。
 ということで、4が答です。同じ悩みを持った人ならではの支援というのがあるので、避けたほうがいいというわけではありません。

 ソーシャルサポートはいろいろな人がいろいろな分類をしていますが、大まかには問題解決のための情報や資源を提供する「道具的サポート」と、困っている人の気持ちに働きかけたり、その行動や考えを是認したりする「情緒的サポート」に分けておけばよいでしょう。
 また最近では直接相手に働きかけずとも、いっしょに遊んだりすることで間接的な支援をする companionship (教育心理学ではまた訳語がないので「共行動的サポート」「娯楽関連的サポート」などといわれています)も注目されています。

 以上で問題8の解説を終わります。

064)平成30年度 試験I  問題8 問4 文化変容における分離

【こたえ】
1

【解説】
 ベリー君の文化変容に関する知識問題ですね。問題には「タイプ」と書いてありますが、原典である Berry (1997) の "Immigration, Acculturation, & Adaptation" では、この分離とか同化とかを four acculturation strategies (文化変容に対する4種のストラテジー)としています。実際の異文化に対峙した人が心の中でする工夫なので、やはりストラテジーが適切だと思います。

 分離 (separation) というのは、自文化を肯定しつつも相手と同調しないことなので、正解は1となります。
 残りも見ていきましょう。
 2は異文化を受け入れて、自文化はなくなってもいいや、という、1の真逆で、これは「同化 (assimilation)」ですね。
 3は4つの工夫に至る前に思い悩む段階であり、ベリーの4つとはどれも違うものと考えられます。4はどちらも受け入れているので 「統合 (integration)」です。ベリーの4タイプで残ったものは「周辺化 (marginalization)」ですが、これはどちらの文化にも積極的に関われなくなることで、3にあるような「葛藤」よりも内向きに沈潜した状態です。いちおうBerry (ibid.) から原文を引いておきましょう。

 Finally, when there is little possibility or interest in cultural maintenance (often for reasons of enforced cultural loss), and little interest in having relations with others (often for reasons of exclusion or discrimination), then Marginalization is defined.
 最後に(しばしば文化的喪失を押し付けられたがゆえに)自文化を維持する可能性も興味もほとんどなく、かつ(しばしば排除されたり差別を受けたりしたがゆえに)他の文化と関わろうという興味もほとんどないとき、それは「周辺化」と定義される。


【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 379-381

2020/02/04

063)平成30年度 試験I  問題8 問3 Wカーブ

【こたえ】
1

【解説】
 カルチャーショックでよく出てくる、U曲線とそれが重なったW曲線の問題です。検定で始めて勉強する方であれば、川岸ら(2014)の研究ノートが詳しく、また論文ではなく研究ノートなので情報が必要十分なだけまとめられており、おすすめです。

 適切なもの、つまり正解は1なのですが、他の選択肢も解説しておきます。
 2ですが、Wカーブは適応の状態を示すカーブです。つまり曲線が上向いているときは適応状態にあり、下に向いているときは文字通りの「落ち込み」、つまり不適応の状態にあります。
 
 3も「周囲との接触度合いを示す」ものではないから不正解です。
 4はなかなかの引っ掛け問題です。異文化から帰国した後だと、Wの字の右のVだけになってしまいます。左のVはまず異文化への移動、そこで適応して右のVでさらに自文化に再び入ってからの不適応状態 (re-entry shock) を経験し、またそれに適応していくことになります。

 ただし、対策本ではU字、W字とも確立された理論のように書いてありますが、実はどちらも仮説の域を出ないもので、さまざまな知見を引っ張ってきて作っている検定では、これ以上の詳しいことは問えないでしょう。
 たとえばビクトリア大学のコリン・ワードはその著書 Ward, Bochner & Furnham (2001) で、留学した学生がU&Wでは記述のある異文化接触におけるハネムーン期などは経ず、当初の1ヶ月がもっとも depressed (暗澹たる気分)であったという経験を調査し、以下のように述べることでこの曲線への批判を匂わせています(訳は荒川)。

 In contrast to beginning cross-cultural transition in a state of euphoria as proposed by Oberg (1960), it is more probable that the transition commences in a state of at least moderate distress. 
 (カルチャーショックという概念を提示した)オバーグが1960年の著作で述べた、異文化接触の初期において人が多幸感を持って推移するという見解とは対照的に、この推移はどう少なく見ても中程度の精神的苦痛をもって始まるということはかなり言えそうである。

 対策本の事項を記憶するのに手一杯かもしれません。でもご自身が日本語教師としてやっていくうちに、その覚えた事項にも他の人文学/社会科学の諸理論に対してと同じように、どんどん新しい疑問が提示されていきます。そしてそれらを検証する試みがなされていきます。このことは覚えておいてください。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381
追加の事項については p.5 もお読みください☆

2020/02/03

062)平成30年度 試験I  問題8 問2 カルチャーショック

【こたえ】
3

【解説】
 カルチャーショックというのは脱専門語化 (de-terminalization)して、日常でも俗な使い方で使うようになりました。その使い方も詳細はともかく、この問題では常識として使えます。

 1は逆で、ショックで精神的には下降状態、つまり気分が落ち込む抑鬱 (depression) の状態になるのでこれは間違いです。
 2が正解です。この分野の基礎文献で包括的なまとめをしている平田(2014)ではカルチャーショックの身体症状として腰痛、微熱、全身の倦怠感などを列挙しています。
 3ですが、インバウンドの国際化が進んでいる現在、自国で外国人とのインタラクションを経験することはますます多くなり、カルチャーショックを感じることは相当にあるはずですので、これも×です。
 最後の4は明確な間違いで、カルチャーショックは持続的な心の状態とされ、次の問題に続くように、段階別に示されます。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381

061)平成30年度 試験I  問題8 問1 文化化

【こたえ】
3

【解説】
 問題8の5問は、異文化接触に関わる問題です。
 "ぶんかか"というのは耳慣れないことばですが、子どもが成長するにつれて自分の属する文化に適応していくことです。当てはまる答は4ですね。で、一定の文化を自ら持つようになった人が、異なる文化に触れて変わるのが文化変容ということになります。
 ところが英語ではこれはいずれも acculturation の一語に集約されます。言い換えれば、acculturation の訳として ①自文化への「文化化」 ②異文化に触れることによる文化変容(選択肢の3) があることになります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』p. 379

2020/02/02

060)平成30年度 試験I  問題7 問5 適切な教材の選定

【こたえ】
3

【解説】
 知識の断片になりがちなコースデザインをスクリプト(時間順での出来事)で考えさせる良問です。1つずつ考えていきます。

 まず1ですが、最初の学習者ニーズを調べる段階で教科書を決めるには尚早です。シラバスを決めてから教科書を考え始めるのが通例です。
 2は現場の実際はともかく、理念的にはあくまでシラバスがまずあって、それに合う教科書を考えるのが普通です。
 4ですが、一昔前はこういうことを言う人がいたのですが、教材の本物らしさ (authenticity) が重視されるようになってから、入門段階でも(むしろ入門段階ゆえに)
生教材を使おうという声が英語教育などでは大きくなっています。

 正解は3ですね。これも理屈の上ではこちらの事情に教材を合わせるのがそもそものあり方であると考えてください(実際は双方のすり合わせになるのですが)。なお主教材の英訳は main textbook ではなく coursebook というのが通例です。

 以上で問題7の解説を終わります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 462-465
日本語教育のミカタ』 pp. 145-146
059)平成30年度 試験I  問題7 問4 カリキュラムデザイン

【こたえ】
3

【解説】
 これはシラバスデザインとカリキュラムデザインの違いを問う問題です。デザインはこの場合「策定すること」ですから、シラバスとカリキュラムの違いがわかれば解けますね。
 
 シラバスは前問のとおり「何を教えるか」、カリキュラムは「いつどうやって教えるか」ですから、後者にはコースの目標、使う教材、スケジュール(進度)、評価方法などが関わります。これで問題を見ると3の「学習項目のリスト」がシラバスであることは明白ですから、こちらが正解となります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426
日本語教育のミカタ』 pp. 9-11

2020/02/01

058)平成30年度 試験I  問題7 問3 様々なシラバス

【こたえ】
1

【解説】
 シラバスの種類と特徴を区別できているか問う設問です。
 言うまでもなくシラバスとは「何を教えるか/学ぶか」を詳述したもので、検定的にはまずざっくりと
・文型シラバス(構造シラバス)
・それ以外の仲間(非構造シラバス)
 に二分しておくと良いでしょう。

 文型シラバスはたとえば「AはBです」のような名詞述語文を「AはBですか」「AはBですか、それともCですか」のように複雑にしていくように、文の構造を易→難に並べたもので、有名な教科書『みんなの日本語 初級』はこれを採用しています。文型を易→難にしたということは、教え方の配列(カリキュラム)もシラバスに含むようになっています。多くの伝統的な外国語教育で採用されており、だんだん難しくなっていくので、初めて教える人でも教えやすいところが特徴です。学習者にとっても文型という記憶の足がかりがあるので学びやすい側面があります。

 それ以外の仲間は非構造シラバス、つまり文型のような関連性は持たず、別の観点からシラバスをまとめあげています。
・どこでそのことばを使うか=場面シラバス
=駅、学校、パーティ、職場などの場面で使いそうなことばや文を学ぶシラバス
・何のためにそのことばを使うか=機能シラバス
=誘う、断る、文句を言う、説明するなどことばの役割に目をつけてまとめたシラバス
 ざっくり書くと、上の2つを足したものを概念・機能シラバスといいます。最初の提唱はウィルキンズ1976です。TESOL(英語教育)では古文の枕草子並みにポピュラーですが日本語教師で実際に読んでる人は少ない模様(個人の印象です)。読みやすいですがシラバスだけざっくり読みたい人はコチラの最後の4ページをどうぞ。学部生の簡単なレポートくらいは書けそうですね。
 
 他にも非構造シラバスとしては話題シラバスや課題シラバスがありますが、これらは実際のタスクやアクティビティと線引きがしにくいので、まずは上の4つをしっかり理解するのが良いと思います。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426-427

2020/01/31

056)平成30年度 試験I  問題7 問1 ニーズ調査・分析

【こたえ】
1

【解説】
 ここからはコースデザインを時間順に考える問題です。コースデザインを大まかに考えると、まず学習者のことを調べ、それに基づいて何を教えるかを決め、最後にいつ何をすするか時間順に落とし込んでいきます
 コースデザインをして授業が計画通りに行けば終わり、というだけではなく、そのあとでコース全体の評価もするのが理想です。遠足はうちに帰るまでが遠足です、と似たような理屈です。

 では最初はニーズ調査と分析、つまり学習者は何を学びたいのか調べて考えるというものです。でも自分が日本語教育研究所みたいなのを持っていて、どこかの会社からウチの社員30人の日本語教育を頼む、などと探偵事務所への依頼がある場合ならともかく、普通は機関に勤めれば、たとえば初級3コマを任され、教科書はもう決まっている、というケースがほとんどです。つまりコースデザインは、新規コースの責任者以外には直接には関わりない場合が少なくありません。

 では順に見ていきます。この手の問題で「~の必要はない」と書いてあるものはたいてい不正解です。ことばの教育は多様な事項が複雑につながった複合体であり、教師と学習者の対話から織り成されるものですから、何かが不要である、と言い切ることはまずできないのです。テクニックっぽいけど覚えておきましょう(実際もそうですし)。
 まず1ですが、アンケートは紙じゃなければいけない、ということはありません。メールでもSNSでも聞けるし、口頭でもかまいません。常識で排除できます。

 2が正解で、さっきの探偵事務所っぽい依頼の場合、その会社でどんな日本語が用いられるのか、学習者はどんな日本人とどんな日本語を使うのか、といったことはまだ未修の外国人にはわかりませんから、その周辺の学習者に聞く必要が出てきます。

 3-4は「必要ない」の文備なので排除できるんですが、いちおう一つずつ。まず入門レベルには調査不要とありますが、入門レベルこそ調査が必要であることお分かりだと思います。調査はコース前で終わればいいのですが、外国語学習はこれで終わり、ということはありません。コース中に新たな二-ズが生じる場合もありますし(マンツーマンでなければそんなに即時の対応は出来ませんが)、コース終了時にも最初のニーズは満たされたか、今何が足りないと思うかなど、調べることは少なくありません。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 424-426
055)平成30年度 試験I  問題6 問5 効果的な練習方法

【こたえ】
2

【解説】
 用語の知識を問う問題です。知っていることば、聞いたことはあることばはどれでしょうか?

 最も有名なのは4の「ディクテーション」でしょうか。聞いた音を文字にして書くものですね。単語のレベルのもの、文を書くものといろいろですが、要は 聞く→書く の作業ですから、コミュニケーション能力の養成からは遠そうです。ちなみにディクテーションの進化形(ポケモンかよ)ディクトグロスがあり、こちらは聞いたことをメモして、あとでペアやグループで話し合いながら内容を復元するという活動で、従来のディクテーションの欠点をカバーするものです。今後の必須用語になりそうですし、国際交流基金日本語国際センターが良い紹介記事を載せています。

 3のフォローアップ・インタビューは「インタビュー」という名前なので、ついペアでのやりとりなどを想像してしまいますが、これは引っ掛け (a trap question)ですね・フォローアップ・インタビューは研究の方法のひとつで、実験などをしたあとに被験者にその内容ややり方などについて改めて訊く活動のことです。

 1のラポート・トーク。Rapport は1語の場合、フランス語の音を文字にして「ラポール」ですが、トークがつくと英語音を文字にして「ラポート」、日本語の融通無碍な音と文字の対応関係が良く出ています。で、意味ですがこれも練習方法ではなく、相手との調和を重視した、心のつながりのある話し方のことです。
 アメリカでベストセラーになったTannen (1990) You Just Don't Understand! では女性のサポート・トークに対して男性のレポート・トーク(社会的な立場を意識した話し方)が示されています。

 正解は2のシナリオプレイで、これはある脚本をそのまま覚えて演じる活動です。自発的な発話はありませんが、自然な言い方を学べるし、受け答えの間や音声面も学べるのでコミュニケーション力の養成に役立つとされています。なお似た概念に、学習者が数ターンの短い劇をするものもあり、こちらはスキット (skit)と呼ばれています。スキットの脚本を学生が書く場合もあります。
 
【解説】
日本語教育のミカタ』 pp. 139-141

2020/01/30

054)平成30年度 試験I  問題6 問4 応答練習

【こたえ】
1

【解説】
 パターン・プラクティスの種類を問う問題です。
 問題だけ見れば日本語クイズ系で、応答、つまり質問と答えを練習するものですから、正答の1はさほど苦労せずに見つけることができます。
 ただし、覚えておくべきことは、オーディオ・リンガル・メソッドの場合、応答練習といっても、何を答えるべきかという「答の内容」もすべて教師が決めていることです。選択肢の中で教師は「毎日テレビを見ますか」という質問の後に「はい」という合図(キュー)を出しています。学習者はこのキューに従って「はい、見ます」と答えることになり、この人がネット中心でテレビは見ない生活であっても、こう答えなければならないことになります。
 正しい文を言う習慣づけは大事かもしれませんが、実生活の習慣と反して、単に文法的に正しいって言うのはどうなの、という批判が広まるとALMは修正を余儀なくされました。

 2はキューが「映画」であり、これに応じて学習者は「テレビ」を「映画」に変えて言うように指示されています。ある単語を前の単語の代わりに入れて言うので、この練習を「代入練習 (substitution drill)」と呼びます。

 3は単に後について繰り返す練習 (repetition of patterns)です。
 4は、先生が言ったことを否定の形にして言っています。文の形を変えるので、「変形練習 (transformation drill)」です。

 パターン・プラクティスが日本に初めて紹介されたのは、わたしが生まれた1961(昭和36)年です。その2年前にALMの創始者Fries(フリーズ)が書いた The Structure of English を山家保が『英語の構造』という題で大修館から出したのが最初です。
 コミュニカティブ・アプローチがそれなりに認識されたのは1980年代ですから、相当の間、ALMは英語教育に君臨し、その波をジョーダンの教科書 Japanese: the Spoken Language などを通じて、黎明期の日本語教育はかぶったと考えてよさそうです。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 409-410
ドリルのほかの種類について知りたい場合は
日本語教育のミカタ』 pp. 125-127
053)平成30年度 試験I  問題6 問3 文型練習

【こたえ】
1

【解説】
 検定の実施団体であるJEESの例題に出てきた、オーディオ・リンガル・メソッド (ALM)がここでも出題されています。

 ALMは先生のあとについてリピートしたり、ちょっと文を変えて言ったりする、いわゆるドリルを鬼のようにやれば正しい文を言うことがもはや習慣となり、結果としてしゃべれるようになる、という信念にもとづく指導法です。このドリルの練習をパターン・プラクティス(業界の人はよくパタプラなどと言います。パタリロじゃないよ)と呼びます。

 以上の知識を踏まえて(パタリロを除く)選択肢をチェックします。

 1が正解で、これはパターン・プラクティスの基本の流れです。学校の英語の授業でも、全員が先生の後についてから(コーラス・リーディングですね)、一人ずつが指名されていたと思います。

 2は不適切で、ALMの場合、間違いを放置せず(間違いを「習慣」にしないため)、正しい文を徹底して練習します。

 3も適切ではありません。初級ではあくまで口頭での繰り返しやドリルが重視されます。教授法の名の通り「オーディオ」とは「耳による、聴覚の」ですから、ALMの推進者たちは書く指導のことは考えていませんでした。

 4はちょっと正解っぽいですね。というのは学習者どうしで練習すると、間違った文が習慣化しそうだからです。でもペアで練習しないと口頭練習の機会が少なくなるので、ALMでのペア練習は基本、自由な発話などはなく、決まった対話などを一字一句変えずに、暗記するまで繰り返します。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 436-437
日本語教育のミカタ』 pp. 120-123

2020/01/29

052)平成30年度 試験I  問題6 問2 媒介語の使用

【こたえ】
3

【解説】
 媒介語とは、外国語として習っている言語(目標言語 TL: target language) を理解するために使う、補助のことばです。たとえば中国人学習者に日本語文法の説明をするときに中国語を用いれば、中国語が媒介語となります。今回はその使用で「不適切」なものを選ぶ問題です。

 1は時間の経済性、つまり説明や理解のための時間がもったいないときは媒介語を使う、というもので、これは理にかなっています。前回に示した帰納的なアプローチは、学習者にこれってどう意味だろう? というワクワク感を与えられますが、時間がかかることは確かです。媒介語でさっと説明すればすぐ済むし、理路整然と進みます。

 2もその通りです。媒介語に頼ってそればっかり使っていては、肝心の目標言語の運用がおろそかになってしまいます。媒介語は料理のスパイスのように、本当に必要なときにちょこっと使う、または授業内で「ここまでは媒介語だけど、ここからは目標言語だけ」ときっちり線引きをするなどの工夫が必要です。

 3ですが、「聞いてください」などの教室の日本語は使用頻度が高い上に学習の初期から多く触れるので、目標言語を使うのが普通です。ですので、これが適切でない、つまり正解です。

 最後の4は適切な使い方です。初級段階でも社会文化的な事項の説明は学習者に必要になるときがあります。でも限られた語彙と文型ではそんな込み入った話はできないので、ここは媒介語に頼らざるを得ないでしょう。

【解説】
日本語教育のスタートライン』p. 408
日本語教育のミカタ』 p. 6
057)平成30年度 試験I  問題7 問2 レディネス調査・分析

【こたえ】
1

【解説】
 次はレディネス調査、つまり学習の準備に関する調査です。レディネス調査をひとことで言うと「学ぶあなたの過去と今の状況」に関する調査です。
 たとえば登山を例にレディネス調査を考えると「登山の経験(過去)」「そこで用いた道具(過去)」「これから登山にかけられる予算(今)」などがそれにあたります。ではどんな山に登りたいか、というとこれは欲求であり、状況ではないのでニーズ調査に関わります。

 この考えを当てはめると、4はニーズ調査に当たるので、これはレディネス調査では不適切になります。
 いちおうこれが正解なのですが、わたし自身は今までのコースデザインでこの2つを峻別したものを見たことはありません。調査する場合、どちらもいっしょに一枚の紙で行なっていました。ですので現実では両者の区別が教え手の心の中でついており、必要に応じて想起できればそれで十分だと考えます。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426
051)平成30年度 試験I  問題6 問1 帰納的アプローチ

【こたえ】
3

【解説】
 ここから初級の指導に関する問題となります。まずは指導の基本的な立場に関する設問です。もちろんキーワードは「帰納的」で、これの反対が「演繹的」であることは解答に必須となります。

・演繹・・・一般的、普遍的な事項から個別的・具体的なことをみちびく(明示的)
<たのしい覚え方> 難しい理屈がエンエんとつづく
・帰納・・・個別的、具体的なことから、一般的・普遍的なことをみちびく(暗示的)
<たのしい覚え方> キノウ(昨日/帰納)のことだから具体的に覚えている

 地味な覚え方も学んだところで、実際の問題を見てみましょう。初級の指導におけるこの概念の差は、
・演繹・・・文型などのルールを先に教えてから個別の文の紹介や練習をする
・帰納・・・数多くの例に触れてから文型などのルールを見つけさせる
 ことをほぼ意味します。英語教育で言えば「受身形とはbe動詞+過去分詞(+by 行為者)である」ことを示してから個別の文にいけば演繹的アプローチ、逆に受身形の文をたくさん示してから(身振り手振りのジェスチャーとか絵や写真も動員)学習者が、これってこういうことかな、と理解に至るのが機能的アプローチになります。

 すると、1は「効率的な文法規則が指導できる」なので文型を面倒な手続きなくざくっと先に紹介してしまうので、これは演繹的になります。
 2は無作為な例文、つまり教材用に「加工」された文(=教えやすく、学びやすいがホンモノではない)を使わない、とありますが通常、初級の指導ではどちらのアプローチでもわかりやすい加工文を使うので、これはどちらにも合致しません。
 3が正解です。キーワードは「発見プロセス」です。上の段落の「これってこういうことかな」の言い換えです。
 4は「原理的な文法説明」という演繹法の基本が述べられていますので、これは排除できますね。

 ここからは検定用の記述ではありません。
 わたしは個人的には、加工文ではなく、実際に使われた(マスメディアの使用も含む)、まぎれもない本物の用例(これに対して加工文は「作例」)を多く示して、学習者に考えてもらう帰納的なアプローチが良いと考えています。ほぼすべての学習者は教材の authenticity (本物さ)を好むものだし、できる・できないに関わらず「この教材は本物か否か」を見抜く目は持っているからです。
 
【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 407-409
日本語教育のミカタ』 pp. 79-80

2020/01/28

050)平成30年度 試験I  問題5 問5 Can-do statements 

【こたえ】
3

【解説】
 前問と同じく、知識問題です。Can-do statements というのはちょっと語学教育に興味がある方なら聞いたことがあるかもしれません。イメージとしては
自分が~語を使ってコレができる、という能力をデカい基準にぶつけて判定する
 感じを思い浮かべればいいでしょう。たとえば「日常的な簡単な会話なら何とか聞き取れる」という「できるコト」を基準にぶつけると「あなたの聞き取りは初級レベル(A1)」みたいな判断がくだされるわけです。ここで注意することは学力テストと違って、自他を比較することはできない、という点です。キャンドゥはなんでも110円で自分と基準との関係なのです。このことから1が排除できます。
 また「できるコト」は具体的に記述されているので2も違います。そして自己評価(または先生などの他者評価)に基づくものですから、個人の特性が相当強くかかわってきます。
 というわけで、3が答え。なお「自律学習」は「自立」ではありません。
 自律学習とは簡単に言うと「自分が自分の先生になる学習」ということです。これは必ずしも"独学"という意味ではなく、いまやっている勉強を他人事ではなくワガコトとしてとらえ、何を学ぶのか、なぜ学ぶのか、どうやって学ぶのかを自分で選び取り、しかもその評価も自らする、という学習のことです。そこでは当然、「私は今何を学んでいる最中なのか」という意識化(メタ認知)が必要になります。

 以上で問題5の解説を終わります。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』pp.595-599
049)平成30年度 試験I  問題5 問4 標準偏差

【こたえ】
1

【解説】
 知識問題です。用語を覚えていればそのまま解けますね。
 標準偏差 (SD) とは受験者のテストの点がどのくらい散らばっているかを示す値で、小さければ小さいほどちらばりは少ないことになります。

 手計算でこの値を出すのは大変ですが、エクセルではどこからどこまでの数字を計算するかを決めて =STDEVPA という計算をさせれば面倒なことは考えずともちゃんと標準偏差は出てきます。

 ちなみに残りは統計の基本用語で、統計の本は「基礎」と書いてあってもわたしなどにはけっこう難しく、早く「統計の基礎を基礎から教える基礎的な本」が出ないかと待っています。待っていても仕方ないので(←早く書け)、解説に行きます。

 2は簡単に言うと「その問題って、どのくらい手ごわいの?」を示す値で、これを「項目弁別力」と言います。上位の点を取ったグループの平均点ー下位の点を取ったグループの平均で導くことができます。

 3は「これって平均点じゃん」と思うかもしれません(習うまでわたしもそう思っていました。認知言語学とかの解説と比べてこの弱気さは何でしょうか...)。実は全部の点を順に並べた時に中央に来る値は「中央値」といって、平均点とは違います。

 うーんとやさしくしましょう。Nび太、Jァイアン、Sネ夫の3人が(著作権が怖いので匿名)算数の試験をしたら、N君26点、J君35点、S君80点だったとします。この場合、中央値は35点です。でも平均点(平均「値」のほうがカッコいい)は47点になります。

 4は簡単に言うと正答率ですね。ということは、正答率95パーセントという試験の場合は「困難度が低い」になるので、数値が高いとそれが高い、という観点からは、まじめな話、「項目容易度」のほうが名称としてはふさわしいと思います(もちろん、そう覚えると検定で間違えてしまうので勉強するほうは大変ですね)。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』p.451

2020/01/27

048)平成30年度 試験I  問題5 問3 テストの妥当性

【こたえ】


【解説】
 頻出問題というべきものです(ちょっと予備校っぽい出だし)。
 テストにおけるこの「何ちゃら性」というのは、テストそのものの評価、つまり
ーこのテスト、ちゃんとしてるの?
 を図る指標のことです。たくさんあるんですが、ここで問われている「妥当性」と「信頼性」が出題の2大巨頭(大げさ)で、「客観性(別の人が採点しても同じ結果になるかどうか)」がそれに続きます。それぞれ解説していきます。

 妥当性というのは、図ろうとしていることが、そのテストで本当にちゃんと図れてるかどうか、を見る指標です。例えば、熱があるかどうかを調べるときに、体温計という道具は「妥当な」道具ですね。でも気温を図るときに体温計は妥当な道具とは言えません。これが妥当性の意味です。

 もう少しお勉強。これはさらに3つに分かれます。

<その1>内容的妥当性・・・質問の内容がちゃんと図るべきことを含んでいるかどうか。これはまあ分かりますね。妥当性の代表選手といってもいいでしょう。

<その2>基準連関的妥当性・・・これは、あるテストが、それと関係あるほかのテストと内容的に相関している(たとえばこのテストで高得点を取ったら関連する別のテストでも同じように高得点が取れる、といったこと)

<その3>因子的妥当性(または構成概念的妥当性)・・・これはちょっと難しいです。まず因子とは「原因を構成するそれぞれの理由」とでも覚えてください(100パーセント正確ではありませんが、当座は大丈夫です)。
 たとえば誰かのリーダーシップを測定する試験があった場合、リーダーと呼べる人であるには知性、明るさ、積極性、話の説得力などが必要と思われますが、これらがすべて組み合わさったテストなら、たとえば積極的かどうかだけを調べる試験よりもリーダーシップがちゃんと図れそうですね? こういうテストかどうかを見る指標が因子的妥当性です。(積極性だけでリーダーシップを図ったら、やたらうるさいだけの奴がリーダーになってしまい、ほかのメンバーは辛いことでしょう...)

 次は信頼性です。これは同じ条件で同じテストをしたときに結果が安定しているかどうかをみる指標です。同じ個人に同じ条件で同じ問題をさせて同じ結果が出れば安定性のある試験、同じ個人に同じ条件で似たような問題をさせても似たような結果が出れば、それは等質性のある試験といえます。

 以上を踏まえて問題を見ましょう。1は指示が不明確なので答えようがなく、結果は不安定になりますから信頼性がないテスト、3も結果にバラツキが出そうなことは分かりますね。4はテストそのものではなく、環境に問題があります。答は2です。習ってない漢字が出ているという内容的妥当性に問題があるからです。

【解説】
 『日本語教育のスタートライン』pp.447-450


 
047)平成30年度 試験I  問題5 問2 訂正法

【こたえ】
3

【解説】
 日本語クイズ系というか、常識系というか...。要は訂正させる問題を選択すればいいので、推論で正解を導くことが可能です。

 これは訂正法の問題なのですが、ちょっと大きいところから話を進めます。テスト(学力テスト)の分類にはいろいろありますが、一番大きいのは以下の3分類です。
①論文テスト(大学入試の小論文とか、卒業論文など)
②教師・学校レベルの客観テスト(個々の先生が作ったテストや学校の中間テストなど)
③標準化された客観テスト(県立高校の入試問題や大学入試センター試験など)
 客観的に学力が図れるか、妥当な内容かなどといったことから、それぞれの長短を考えてみると良いでしょう。

 で、②③の客観テストの形式はさらに
A. 再生法式
B. 再認法式
 に分かれます。両方とも「再」がついて区別がつきにくいのですが、客観テストはそもそも習ったことをテストの場で「再び思い起こす」のですから、コレは習ってないよ! 初めて見るよ! いや聞いてないっすよ! などということはないのが普通です。

 再生法式とは、頑張って勉強して覚えた内容を、そのまま思い出させる問題です。
例:問:関ヶ原の戦いは何年に起きたか、答えよ。 答:1600年
 上の問題は「単純再生法」にもとづく形式です。で、ほかに再生法として、今回の訂正法、序列法、自由完成法などがあります。

 次に再認法式とは覚えた内容をそのまま出すのではなく、選択肢から選ばせるというものです。二者択一とか、4つくらいから選ばせる多肢選択法とか、組み合わせをさせる方法などです。有名なのはクローズテスト (Cloze Test) で、一定の書き言葉(テキスト)から8-10語くらい置きに空欄を作り、そこに正しい(あるいは意味の通る適切な)語を入れる、というものです。

 ではこれらの知識を踏まえて残りの選択肢を見ていきましょう。
 1は上の解説通り、多肢選択法を用いた「再認法式」ですね。
 2は選ぶのではなく、指示を与えて変換させる「再生法式」です。
 そして4は並べ替えをする「再生方式」です。

2020/01/26

041)平成30年度 試験I  問題3-D(18)係助詞

【こたえ】
 2

【解説】
 古語も入れた助詞の整理問題です。
 いちばん早い覚え方は「係助詞とは現代語の取立て助詞に相当する」というものです。これで正解は即、出ます。まあまず「取立て助詞」が何だかわからないと困るんですが、それは下の「参考」のページをご覧になってください。

 では取り立て助詞と係助詞は何が違うかと言うと、係助詞は「かかり」という言葉が示すように、後につく語にかかる(その形に影響する)という働きも持っていたのです。古文の授業で「係り結び」ということばを聴いたことがあるかもしれません。これがその現象で、係り結びをもたらす「ぞ・なむ・や・か・こそ」の5つは検定必須です。で、この「かかりパワー」が中世にはいわば「ほどけて」しまい、廃れてしまったことになります。

 ついでに残りの選択肢も解説しておきます。
 まず1の接続助詞「か」です。接続助詞というのは動詞や形容詞のうしろについて、続く語とつなぐ助詞のことです(「または」「しかし」などの"接続詞"とは違うので気をつけてください)。古語でも現代語でも同じなのは「ながら」「つつ」などです。日本語教育ではこれらは文型として処理しているのでわかりにくくなっていますね。
 それでは接続助詞の「か」ですが、これは「ぬかも」などの形で使われる、非常にマイナーな用法で、検定の選択肢としては難しすぎるように思います。
 
 次に格助詞の「は」ですが、そもそも「は」は取り立て助詞であって、これは存在しないもの、あるいは正しくないものです(個人的には、間違いを探させる問題以外にこういう選択肢は作らないほうが良いと思います)。

 最後は並立助詞の「ぞ」です。並立助詞というのは、同じ類に属することばを並べるときに使う助詞で、古語でも現代語でも同じものとしては「や」があります。「りんごやみかんを買った」という場合の「や」です。で、並立助詞の「ぞ」ですが、これも存在しないのでバツです。

【参考】
日本語教育のスタートライン』 p. 72-73

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート 【こたえ】 4 【解説】  ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、 いろいろ困った人に周りの人が支援すること です。それさえわかれば、正解に近づくこ...