2020/02/05

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート

【こたえ】
4

【解説】
 ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、いろいろ困った人に周りの人が支援することです。それさえわかれば、正解に近づくことが出来ます。

 1は適切つまり不正解ですね(ややこしい)。要はニーズと支援内容が一致したとき効果的だということで、当たり前です。慰めがほしいときには励ましよりも慰めをあげましょう。
 2も適切です。相手があんまり困った状態にあったら、支援したところで限られた効果しかない、というのは常識的な推論です。
 3も適切ですね。どんな悩みを抱えているかで支援の内容は変わってきます。
 ということで、4が答です。同じ悩みを持った人ならではの支援というのがあるので、避けたほうがいいというわけではありません。

 ソーシャルサポートはいろいろな人がいろいろな分類をしていますが、大まかには問題解決のための情報や資源を提供する「道具的サポート」と、困っている人の気持ちに働きかけたり、その行動や考えを是認したりする「情緒的サポート」に分けておけばよいでしょう。
 また最近では直接相手に働きかけずとも、いっしょに遊んだりすることで間接的な支援をする companionship (教育心理学ではまた訳語がないので「共行動的サポート」「娯楽関連的サポート」などといわれています)も注目されています。

 以上で問題8の解説を終わります。

064)平成30年度 試験I  問題8 問4 文化変容における分離

【こたえ】
1

【解説】
 ベリー君の文化変容に関する知識問題ですね。問題には「タイプ」と書いてありますが、原典である Berry (1997) の "Immigration, Acculturation, & Adaptation" では、この分離とか同化とかを four acculturation strategies (文化変容に対する4種のストラテジー)としています。実際の異文化に対峙した人が心の中でする工夫なので、やはりストラテジーが適切だと思います。

 分離 (separation) というのは、自文化を肯定しつつも相手と同調しないことなので、正解は1となります。
 残りも見ていきましょう。
 2は異文化を受け入れて、自文化はなくなってもいいや、という、1の真逆で、これは「同化 (assimilation)」ですね。
 3は4つの工夫に至る前に思い悩む段階であり、ベリーの4つとはどれも違うものと考えられます。4はどちらも受け入れているので 「統合 (integration)」です。ベリーの4タイプで残ったものは「周辺化 (marginalization)」ですが、これはどちらの文化にも積極的に関われなくなることで、3にあるような「葛藤」よりも内向きに沈潜した状態です。いちおうBerry (ibid.) から原文を引いておきましょう。

 Finally, when there is little possibility or interest in cultural maintenance (often for reasons of enforced cultural loss), and little interest in having relations with others (often for reasons of exclusion or discrimination), then Marginalization is defined.
 最後に(しばしば文化的喪失を押し付けられたがゆえに)自文化を維持する可能性も興味もほとんどなく、かつ(しばしば排除されたり差別を受けたりしたがゆえに)他の文化と関わろうという興味もほとんどないとき、それは「周辺化」と定義される。


【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 379-381

2020/02/04

063)平成30年度 試験I  問題8 問3 Wカーブ

【こたえ】
1

【解説】
 カルチャーショックでよく出てくる、U曲線とそれが重なったW曲線の問題です。検定で始めて勉強する方であれば、川岸ら(2014)の研究ノートが詳しく、また論文ではなく研究ノートなので情報が必要十分なだけまとめられており、おすすめです。

 適切なもの、つまり正解は1なのですが、他の選択肢も解説しておきます。
 2ですが、Wカーブは適応の状態を示すカーブです。つまり曲線が上向いているときは適応状態にあり、下に向いているときは文字通りの「落ち込み」、つまり不適応の状態にあります。
 
 3も「周囲との接触度合いを示す」ものではないから不正解です。
 4はなかなかの引っ掛け問題です。異文化から帰国した後だと、Wの字の右のVだけになってしまいます。左のVはまず異文化への移動、そこで適応して右のVでさらに自文化に再び入ってからの不適応状態 (re-entry shock) を経験し、またそれに適応していくことになります。

 ただし、対策本ではU字、W字とも確立された理論のように書いてありますが、実はどちらも仮説の域を出ないもので、さまざまな知見を引っ張ってきて作っている検定では、これ以上の詳しいことは問えないでしょう。
 たとえばビクトリア大学のコリン・ワードはその著書 Ward, Bochner & Furnham (2001) で、留学した学生がU&Wでは記述のある異文化接触におけるハネムーン期などは経ず、当初の1ヶ月がもっとも depressed (暗澹たる気分)であったという経験を調査し、以下のように述べることでこの曲線への批判を匂わせています(訳は荒川)。

 In contrast to beginning cross-cultural transition in a state of euphoria as proposed by Oberg (1960), it is more probable that the transition commences in a state of at least moderate distress. 
 (カルチャーショックという概念を提示した)オバーグが1960年の著作で述べた、異文化接触の初期において人が多幸感を持って推移するという見解とは対照的に、この推移はどう少なく見ても中程度の精神的苦痛をもって始まるということはかなり言えそうである。

 対策本の事項を記憶するのに手一杯かもしれません。でもご自身が日本語教師としてやっていくうちに、その覚えた事項にも他の人文学/社会科学の諸理論に対してと同じように、どんどん新しい疑問が提示されていきます。そしてそれらを検証する試みがなされていきます。このことは覚えておいてください。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381
追加の事項については p.5 もお読みください☆

2020/02/03

062)平成30年度 試験I  問題8 問2 カルチャーショック

【こたえ】
3

【解説】
 カルチャーショックというのは脱専門語化 (de-terminalization)して、日常でも俗な使い方で使うようになりました。その使い方も詳細はともかく、この問題では常識として使えます。

 1は逆で、ショックで精神的には下降状態、つまり気分が落ち込む抑鬱 (depression) の状態になるのでこれは間違いです。
 2が正解です。この分野の基礎文献で包括的なまとめをしている平田(2014)ではカルチャーショックの身体症状として腰痛、微熱、全身の倦怠感などを列挙しています。
 3ですが、インバウンドの国際化が進んでいる現在、自国で外国人とのインタラクションを経験することはますます多くなり、カルチャーショックを感じることは相当にあるはずですので、これも×です。
 最後の4は明確な間違いで、カルチャーショックは持続的な心の状態とされ、次の問題に続くように、段階別に示されます。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 377-381

061)平成30年度 試験I  問題8 問1 文化化

【こたえ】
3

【解説】
 問題8の5問は、異文化接触に関わる問題です。
 "ぶんかか"というのは耳慣れないことばですが、子どもが成長するにつれて自分の属する文化に適応していくことです。当てはまる答は4ですね。で、一定の文化を自ら持つようになった人が、異なる文化に触れて変わるのが文化変容ということになります。
 ところが英語ではこれはいずれも acculturation の一語に集約されます。言い換えれば、acculturation の訳として ①自文化への「文化化」 ②異文化に触れることによる文化変容(選択肢の3) があることになります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』p. 379

2020/02/02

060)平成30年度 試験I  問題7 問5 適切な教材の選定

【こたえ】
3

【解説】
 知識の断片になりがちなコースデザインをスクリプト(時間順での出来事)で考えさせる良問です。1つずつ考えていきます。

 まず1ですが、最初の学習者ニーズを調べる段階で教科書を決めるには尚早です。シラバスを決めてから教科書を考え始めるのが通例です。
 2は現場の実際はともかく、理念的にはあくまでシラバスがまずあって、それに合う教科書を考えるのが普通です。
 4ですが、一昔前はこういうことを言う人がいたのですが、教材の本物らしさ (authenticity) が重視されるようになってから、入門段階でも(むしろ入門段階ゆえに)
生教材を使おうという声が英語教育などでは大きくなっています。

 正解は3ですね。これも理屈の上ではこちらの事情に教材を合わせるのがそもそものあり方であると考えてください(実際は双方のすり合わせになるのですが)。なお主教材の英訳は main textbook ではなく coursebook というのが通例です。

 以上で問題7の解説を終わります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 462-465
日本語教育のミカタ』 pp. 145-146
059)平成30年度 試験I  問題7 問4 カリキュラムデザイン

【こたえ】
3

【解説】
 これはシラバスデザインとカリキュラムデザインの違いを問う問題です。デザインはこの場合「策定すること」ですから、シラバスとカリキュラムの違いがわかれば解けますね。
 
 シラバスは前問のとおり「何を教えるか」、カリキュラムは「いつどうやって教えるか」ですから、後者にはコースの目標、使う教材、スケジュール(進度)、評価方法などが関わります。これで問題を見ると3の「学習項目のリスト」がシラバスであることは明白ですから、こちらが正解となります。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426
日本語教育のミカタ』 pp. 9-11

2020/02/01

058)平成30年度 試験I  問題7 問3 様々なシラバス

【こたえ】
1

【解説】
 シラバスの種類と特徴を区別できているか問う設問です。
 言うまでもなくシラバスとは「何を教えるか/学ぶか」を詳述したもので、検定的にはまずざっくりと
・文型シラバス(構造シラバス)
・それ以外の仲間(非構造シラバス)
 に二分しておくと良いでしょう。

 文型シラバスはたとえば「AはBです」のような名詞述語文を「AはBですか」「AはBですか、それともCですか」のように複雑にしていくように、文の構造を易→難に並べたもので、有名な教科書『みんなの日本語 初級』はこれを採用しています。文型を易→難にしたということは、教え方の配列(カリキュラム)もシラバスに含むようになっています。多くの伝統的な外国語教育で採用されており、だんだん難しくなっていくので、初めて教える人でも教えやすいところが特徴です。学習者にとっても文型という記憶の足がかりがあるので学びやすい側面があります。

 それ以外の仲間は非構造シラバス、つまり文型のような関連性は持たず、別の観点からシラバスをまとめあげています。
・どこでそのことばを使うか=場面シラバス
=駅、学校、パーティ、職場などの場面で使いそうなことばや文を学ぶシラバス
・何のためにそのことばを使うか=機能シラバス
=誘う、断る、文句を言う、説明するなどことばの役割に目をつけてまとめたシラバス
 ざっくり書くと、上の2つを足したものを概念・機能シラバスといいます。最初の提唱はウィルキンズ1976です。TESOL(英語教育)では古文の枕草子並みにポピュラーですが日本語教師で実際に読んでる人は少ない模様(個人の印象です)。読みやすいですがシラバスだけざっくり読みたい人はコチラの最後の4ページをどうぞ。学部生の簡単なレポートくらいは書けそうですね。
 
 他にも非構造シラバスとしては話題シラバスや課題シラバスがありますが、これらは実際のタスクやアクティビティと線引きがしにくいので、まずは上の4つをしっかり理解するのが良いと思います。

【解説】
日本語教育のスタートライン』pp. 426-427

065)平成30年度 試験I  問題8 問5 ソーシャルサポート 【こたえ】 4 【解説】  ソーシャルサポート (social support, 社会的支援)とは心理学のことばで、 いろいろ困った人に周りの人が支援すること です。それさえわかれば、正解に近づくこ...